北朝鮮の朝鮮中央通信など複数のメディアが8日、金正恩総書記が第2子とみられる娘のキム・ジュエ氏を伴って朝鮮人民軍の宿舎を訪れたことを報じた。その後おこなわれた建軍節の祝賀会では、正恩氏、妻の李雪主氏、ジュエ氏が軍幹部をしたがえて記念撮影に収まった。娘が表舞台に姿を現したのは昨年11月のミサイル発射行事以来だが、その呼称は「愛するお子様」から「尊貴なお子様」「尊敬する子女」と待遇がどんどんあがっている。
正恩氏は直前の6日、朝鮮労働党中央軍事委員会に出席、昨年12月31日以来37日ぶりに公式の場に姿を見せたばかりだった。
「この日、金氏は『つくられた情勢に対して人民軍隊の作戦戦闘訓練を拡大強化し、戦争準備体制をより厳格に完備する』と軍事力強化を内外にアピールしましたが、当然、背景にはアメリカにプレッシャーを与えたいという意図があることは明らかです。つまり、今年もまたミサイルによる威嚇がスタートする可能性が俄然高くなったというわけです」(北朝鮮ウォッチャー)
そんな中、正恩氏が娘のキム・ジュエ氏を公式行事に帯同させる理由について、韓国戦略文化研究センター院長が英タイムズ紙に興味深い考察を語っている。
「正恩氏が娘を自国メディアの前に登場させるのは、後継者としての存在を知らしめるためと思われていました。しかし記事によれば、現在NO.2である妹・金与正氏が影響力を持ち始めたことで、後継者問題の構図に変化がみられるようになった。そこで正恩氏が妻・李雪主氏に気を遣い、彼女を安心させるためにあえて娘を帯同させたのでは、というのです。センター院長が言うには『与正氏は影響力が強く野望もあって攻撃的』で、李雪主氏がそれを不安視しているのだとか。むろん、現段階では推測の域を出ませんが、正恩氏には常々健康問題が囁かれているので、もしもの事態が起これば後継者問題が一気に加速することは間違いない。今は波風が立っていない妻と小姑の関係も、一寸先はわからないということです」(同)
与正氏は現在、北朝鮮労働党の副部長の地位にあり、ウクライナへ主力戦車を供与すると発表した米国に対しても、「米国こそがロシアの安全を脅かし、地域情勢を険悪な状態に追いやった張本人。強く糾弾する」と、相変わらずの強気の姿勢を見せている。
軍の上層部には不人気だと言われる与正氏だが、もしもの場合にはNO.2である与正氏が政権を引き継ぎ、その後、正恩氏の子息に移譲するというのが一般的な見方だ。
娘キム・ジュエ氏の度重なる“お披露目”は、先が読めない、何が起こるかわからない北朝鮮の現実を表しているようだ。
(灯倫太郎)