サッカーJ2リーグの町田ゼルビアが今季、新監督として招聘したのは、青森山田高校サッカー部の総監督を務めていた黒田剛氏。
黒田監督は、青森山田高を全国屈指の強豪校に育て上げ、近年は黄金時代ともいうべき強さを見せつけた高校サッカー界の名将だ。
最初に青森に赴任したときは、部員が20人にも満たなかったという。それでも約30年の指導の歴史の中で、カタールW杯日本代表メンバーでもある柴崎岳(レガネス)を始め、室屋成(ハノーファー96)、松木玖生(FC東京)など数多くの選手をJリーグに送り出してきた。
高校サッカーの監督がプロであるJリーグで結果を出せるのか。アマチュアの指導者がプロで通用するわけがない。そういう考え方が多いだろう。
しかし、高校サッカーの監督からJの監督に転身したのは初めてのことではない。かつて、市立船橋高校サッカー部を全国の強豪に育て上げ、何度も全国制覇を成し遂げた布啓一郎氏(関東1部リーグ・現VONDS市原監督)がいる。布氏は2003年に市立船橋高を退職し、U-16日本代表、U-19日本代表の監督を務めた後、ザスパクサツ群馬(J3)、松本山雅FC(J2)、FC今治(J3)とJリーグ3クラブの監督を経験している。
なぜ、アマチュアの監督がプロの監督になれるのか? サッカーには監督になるための、指導者ライセンス制度があるからだ。細かくいえば、キッズリーダー、D級、C級、B級、A級U-12、A級U-15、A級ジェネラル、S級に分かれ、S級ライセンスを取得すれば、プロチーム、代表等の監督を務めることができる。
もちろん、費用も時間も必要で誰でも簡単に取れるものではない。それでも、Jで指揮を執りたいのであればS級ライセンスは必須になる。
黒田監督、布監督のほかに面白い経歴をもっているのは、C大阪の小菊昭雄監督。プロ選手としての経験がなく、大学卒業間近にC大阪のアカデミーのアルバイトから始まり正社員に昇格し、その後もアカデミーのコーチ、強化部でスカウトなどを経験しながらS級ライセンスを取得。トップチームのコーチを経て2021年夏、監督に就任している。
海外に目を向ければ、欧州には銀行員やシステムエンジニアからトップチームの監督に上り詰めた者がいる。世界的な指導者であるジョゼ・モウリーニョ(ローマ監督)も通訳からのスタートだった。
過去の経歴は関係ない。プロの監督にとって大事なことは結果。黒田監督が、どういうサッカーで、どんな結果を出すのか。注目したい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。