メッシがマラドーナを超えた。
カタールW杯決勝、アルゼンチン対フランスの試合は、激しい点の取り合いとなり、延長PK戦までもつれ込みアルゼンチンが36年ぶり3度目の優勝を飾った。
前半、アルゼンチンが2-0で折り返したときは、一方的な試合になるのでは思われた。だが、そんな予想を覆したのがフランスのエース・エムバペだ。わずか1分で2得点を決め、一瞬で同点に追いついた。延長に入ってもメッシ、エムバペのゴールで3-3。PK戦までもつれ込んだとはいえ、歴史に残る決勝だった。
主役は間違いなくメッシだった。
天才と言われた彼は常にアルゼンチンの英雄・マラドーナと比較されてきた。アルゼンチン代表の背番号10番も引き継ぎ、メッシにかかる期待は大きかった。
FCバルセロナに所属し、スペインリーグ優勝10回、得点王8回。UEFAチャンピオンズリーグ優勝4回。バロンドール受賞7回。
その輝かしいタイトルを見れば、誰もが、メッシはマラドーナを超えたと思っていた。しかし、アルゼンチン国民は違った。
「メッシはバルセロナでは凄いが、代表では何の結果も出していないし勝負弱い」
「マラドーナはW杯で優勝した。メッシは優勝していない」
と、マラドーナ超えを認めなかった。
現にバルセロナでの輝かしい実績に比べ、アルゼンチン代表では結果を出せていなかった。W杯はもちろんのことコパ・アメリカ(南米選手権)でも優勝できなかった。コパ・アメリカでの優勝は6回目の挑戦となった昨年のブラジル大会まで待たなければいけなかった。
なぜ、アルゼンチン国民はメッシを認めなかったのか。それは、メッシの本当の凄さを理解していたからである。マラドーナを超えた凄い選手が現れた。この男なら、アルゼンチンをもう一度世界の頂点に導いてくれる。その期待の裏返しだった。
「メッシよ、マラドーナを超えたければ、W杯でアルゼンチンを優勝させろ」
メッシはそのプレッシャーと10年以上戦ってきた。
だから優勝した瞬間、いつもと違うメッシの安堵感に満ちた喜びが見られた。そしてアルゼンチン国内のブエノスアイレスの広場に10万人以上の歓喜の輪ができていた。
メッシ、そしてアルゼンチン国民の悲願の優勝。心から、おめでとうと言いたい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。