上海をはじめ、北京、武漢、広州など、その勢いが留まるところを知らない中国の「ゼロコロナ」政策への抗議デモ。
きっかけは24日、新疆ウイグル自治区ウルムチで発生したマンション火災で、周辺地域のロックダウンにより消防の到着が遅れ10人の命が失われたことにあるが、26日夜には上海で犠牲者を追悼する集会が開かれ、参加者が白い紙を掲げて抗議。27日には北京市内でも1000人を超える市民によるデモが起こり、その流れが各地へ飛び火している。
国際問題に詳しいジャーナリストが解説する。
「習近平政権が『ゼロコロナ』政策を掲げて早3年。人の流れは止まり、流通も滞り、おかげで経済はここ数年でガタガタになってしまった。にもかかわらず、先の共産党大会でも習氏は『ゼロコロナ』政策を継続すると声高に宣言しました。自由を制限され続けてきた国民は積もりに積もった不満で、もはや爆発寸前だった。そんな中、上海で抗議デモが起こり、ついには国民の怒りに火がついたのです」
ロイター通信は、デモ参加者らが手にする「白紙」には、政府批判の文言を掲げないことで、検閲や逮捕の対象になるのを避ける意味があるほか、「白紙」自体「言論の自由がないこと」の象徴だと伝えている。
ジャーナリストが続ける。
「実は、今年モスクワで起こったウクライナ侵攻に抗議するデモにおいても白い紙が使われていて、2020年には香港の活動家たちも国家安全維持法に抵触するスローガンを避けるため、白い紙を掲げて抗議しています。トレンドというわけではありませんが、いまや白紙そのものが言葉を自由に発せられないことの象徴になっているのです」
とはいえ、ことのほか言論統制が厳しい中国国内で、習近平氏や中国共産党を批判することじたい極めて異例。しかも現時点では、本格的な弾圧が行われている様子は見て取れない。
「ただ歴史的にみても、中国政府が抗議者の要求に対し、弱腰になることはありえません。なぜならそれが、さらなる抗議活動を誘発することを骨身にしみるほど知っているからです」(同)
中国では現在も「存在しなかった」とされる「天安門事件」。1989年、北京大や清華大の学生が胡耀邦総書記追悼のため天安門広場に集まり、民主化や腐敗した政治の打倒、少数民族の人権保護などを求める抗議活動が勃発。集会は2カ月近くも続き世論も後押ししたが、中国政府はこれを武力で押さえつけ多くの死傷者を出した。
今回のデモを受け、ニューヨーク・タイムズは「共通する不満の種をきっかけに、失うものがないデモ参加者が協力すれば、共産党が最も恐れることが現実になるだろう。民主化を求めて天安門を占拠した1989年の再来である」と指摘。英フィナンシャル・タイムズも「全国への広がりや共産党への直接的な抵抗という視点からみれば、習主席の代名詞ともいえるゼロコロナ政策に対する抗議運動は、1989年の天安門事件以来、前代未聞だ」と報じている。
「白紙革命」は今後どのように発展するのか、行方が気になるばかりだ。
(灯倫太郎)