入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈ポスティング〉(3)泥棒と同じメンタルで作業

 さて、ポスティングの作業は苦労が絶えない。不審者と見られ、常に〝不法侵入〟と呼ばれる「住居侵入罪」とのせめぎ合いが待っている。

「ほとんどの会社が『チラシお断り』のシールが貼られた一戸建てへの配布を禁止している。無理をしてもクレーマーの餌食になるだけだからな。『社会のゴミ野郎!』と、ムシの居所が悪い住人からタバコの吸い殻を投げつけられたこともあった。だけど、集合住宅の場合はルールが緩くなるね。頭に『警察に通報』や『罰金』の文言がなければセーフと判断して配ってしまう。大量にチラシをさばける大口の〝顧客〟を逃す手はないからな(笑)」

 セキュリティー充実のタワーマンションにも挑む。

「オートロックやコンシェルジュを突破するのは無理。狙いは、宅配業者やゴミ捨てのための通用口のほうだよ。もはや、泥棒と同じメンタルなわけよ。悪いことをしている背徳感でいつもビクビクだよ。管理人にバレて全部回収させられたこともあった。それでも、世帯数の多いタワマンはトライする価値があるんだ」

 ところで、チラシを配る前に廃棄し、ごまかして稼ごうと考えたことはなかったか。

「確かに10〜20枚を捨てる分にはバレない。ただし、数百枚単位になると話は別。河原や公園に不法投棄しようものなら、チラシを見つけた通行人から広告主に連絡が行く。そこからポスティング会社にクレームが入る。誰がいつ、どこを担当したかの記録が残っているからすぐにバレちゃうね」

 であれば、自宅に持ち帰って資源ごみとしてまとめて出してしまえば‥‥。

「ポスティング会社の経営サイドの人間が見回りに来るんだよ。しかも、最近はGPSで管理されている。ひと昔前は専用の端末を持たされたけれど、最近はスマホにアプリをインストールさせられるんだ。15分でも休んでたら、会社から『具合悪いんなら、今日はやめときます?』と嫌味ったらしい電話がかかってくる。だから、昼メシはコンビニのおにぎりや菓子パンでパッと済ませてばかりだよ」

 気が付けば、宴もたけなわ。目が据わるほどベロベロに酩酊した石垣さんが本音を語りだした。

「正直、仕事にやりがいなんてない。小学校低学年レベルの漢字が読めて、1人で歩いて物を掴めれば誰にでもできる簡単なお仕事だからな。よくても月20万円程度の稼ぎ。それだけに、これを読んでいる人も、会社員時代に培ったスキルはまったく生かせないと考えてほしい。プライドの高い重役経験者と住人のトラブルは絶えない。まぁ、我慢して同じ会社に居続ける必要もない。都内だけでもポスティング会社は100以上ある。どこも人手不足だから、嫌ならすぐ移れるよ」

 セカンドライフの運動不足解消を兼ねた小遣い稼ぎと考えれば、気楽にできるかもしれない。

*週刊アサヒ芸能10月13日号掲載

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