世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「阪神にタイトル争いの悪しき弊害」

 阪神の野手は大いに反省してほしい。9月4日の巨人戦(甲子園)でシーズン24度目の完封負けを喫し、1963年の球団ワーストに並んだ。6回まで1安打投球を続けていた西純矢を見殺し。この3連戦で2敗1分けとなり、3位争いで引導を渡すどころか、2ゲーム差に迫られた。

 これだけ得点できないとなると、一人だけの責任ではない。出塁する人、つなぐ人、決める人と、それぞれが役割を果たせていないということ。例えば、主に1番を任せられている中野も直すべきところがある。ヤクルト・村上らと最多安打を争うほどヒットを打っているけど、15四球はいくら何でも少なすぎる。打てる球なら初球から何でも振っていくスタイルやから、ヒットは増えても、四球は取れない。1番打者の出塁率が3割を切っていては苦しい。

 これは最多安打がタイトルになった弊害もあると思う。イチローが204安打を記録した1994年からタイトルに加わった。そうなると、最多安打を狙える選手は四球より安打を打ちたくなるのもわかる。僕の現役時代はタイトルでなかったから意識していなかったけど、記録を見返してみると計4度、最多安打となっている。意識していれば、毎年のようにタイトルを獲得できたと思う。シーズン最多四球も6度ある。初球から打っていけば、四球数は減るけど、ヒット数は間違いなく増えるから。

 僕の場合は1番打者として初球で凡退するとベンチに帰って叱られた。初球を見送らないといけない2番打者にも迷惑がかかる。1、2番は相手投手に球数を投げさせて、後続の打者のために、変化球の曲がり具合や、真っすぐの力強さを見せてナンボのところがあった。だから出塁できなくてもファウルで粘って、10球近く投げさせると、褒めてもらえた。だから走者がいない場面では初球は見送るものと決めていた。1ストライク取られても、ハンデをあげるぐらいに思っていた。追い込まれても簡単に三振しない自信もあった。

 今の時代は完投する投手が少ないから、なおさら球数を投げさせることが有効になる。そうやって1、2番がヒットを打つことだけを考えるのではなく、打席の中で粘ることを意識すれば、こんなペースで完封されることはない。

 それと不満なのは、初回に先頭打者が初球にヒットを打っても、二盗にトライすることがほとんどない。あってもフルカウントになってから。「走るな」のサインが出ていれば別やけど、ある程度、自由に走ることは許されているはず。早いカウントから、もっと積極的に仕掛けてほしい。残り15試合を切って、20盗塁は少なすぎる。0─0からの1点が欲しい場面など、ここ一番で走れない。どうでもいい場面で数を稼いでも意味がない。

 僕は必ず3球目までに走ると決めていた。相手がウエストしてくるからアウトになる確率が高いとわかっていても走った。お客さんも僕が走るのを見に来ているんやから、と。今なら村上がドッシリ構えて、ファンの期待に応える打撃をしている。ちょこんと当てたヒットではなく、球場中がホームランを見に来ていることをわかっている。中野も塁上で動かないまま無得点に終わるより、盗塁でアウトになるほうがファンも納得すると思ってほしい。プロ野球はエンターテインメントなんやから。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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