検査キット・解熱剤不足で囁かれる「サル痘ワクチンは届くのか?」の声

 相変わらずの後手後手対応である。

 新型コロナウイルス第7波の感染拡大は社会に大きな混乱をもたらし、医療現場や保健所、自治体の担当者からは「もはや限界を超えている」との悲鳴が上がっている。そして、混乱は一般の社会生活にも広がっている。

 JR九州は感染者、濃厚接触者の拡大で乗務員の手配がつかなくなったため特急の一部を運休。また小田急バスも一部の路線で減便に踏み切っている。郵便局も全国で170局ほどが業務停止に追い込まれた(7月28日時点)。医療ジャーナリストが憤って言う。
 
「飲食店や旅館などでも人手が足りず、せっかくの書き入れ時にもかかわらず業務を泣く泣く縮小するところも出てきているようです。政府は、経済を回さないといけないということで行動制限を実施しませんでしたが、行動制限どころか必要な他のことも準備しなかったため、かえって肝心の経済活動まで影響しています。高齢者などに外出自粛を求める『BA.5対策強化』も付け焼き刃的ですし」

 政府は当初、「検査キットの在庫は十分にあるから安心を」と強調していたが、いざ感染が拡大すると、あちこちの医療機関から検査キットが足りない、との声が上がり始めた。厚労省はあわてて抗原検査キットの無料配布を決めたものの‥‥

「急に言われても受け入れ態勢が間に合わないという自治体も多く、発送がうまくいっているとは言えません。また、薬局での無料配布も可能となりましたが、これまた急で薬局側も態勢づくりに相当苦労するはず。要するに、第7波に向けた検査体制について政府が何もやってこなかったということです。さらに言えば、抗原検査はPCR検査に比べて精度が低く、陽性でも陰性と出てしまうことがあり、逆に感染拡大に拍車をかけてしまうのではという指摘もあります」(同)

 足りないのは検査キットだけではない。新型コロナ患者に処方される解熱鎮痛剤のカロナールも急激な需要の高まりで、生産が追い付かず出荷調整に入った。前出・医療ジャーナリストによれば、

「カロナールは比較的副作用が少ないことから妊婦や授乳中の女性によく用いられます。これが処方できないとなると、妊婦のコロナ患者などは大きな不安でしょう」

 厚労省はやはりあわててカロナールの買い込みを控えるよう医療機関や薬局に通知を出したが、なんとも場当たり的と言わざるを得ない。そんなことをしているうちに、
 
「新型コロナウイルスの最悪バージョンと言われる新変異株BA2.75、通称『ケンタウロス』が徐々に広がっていて、置き換わるのも時間の問題ともされます。そうなったときどうするのか、まったく見えません。ウイルスの扱いを2類相当から5類にという議論も相当前から出ていましたが、最近ようやく検討しはじめた有様です。本来なら第6波が下がり始めた時に議論しておくべきでしたが、参院選でそれどころではなかったのでしょう」(同)

 ここで懸念されるのが、先日国内で初めて感染者が確認されたサル痘への対応だ。感染経路は体液や血液、ごく近くでの飛沫感染などに限られるため新型コロナのような爆発的な拡大とはならないだろうが、世界的に感染者が増えているのは事実。WHOに続き、ニューヨーク州、ニューヨーク市、サンフランシスコ市が緊急事態を宣言している。前出・医療ジャーナリストが言うには、

「感染力はそれほど強くないとはいえ、患者の家族、検査や治療に携わる医療関係者にはリスクがあります。予防には天然痘ワクチンが有効とされていますが、日本国内にテロ対策用に生産・備蓄されている天然痘ワクチンが、いざというとき本当に首尾よく流通できるのか、コロナの対応を見る限り甚だ疑問です」(同)

 サル痘による死者は、アフリカ大陸以外でも確認され始めている。後手後手はもう許されない。

(加賀新一郎)

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