先月開かれたNATO首脳会議の閉幕後会見で、ストルテンベルグ事務総長は「ロシアが私たちの安全保障にとって最大かつ直接的な脅威であることを明確にした」として、ロシアを事実上の敵国と認定した。
さらに、「ロシアのウクライナ侵攻は、ヨーロッパにとって第2次世界大戦以来の危機」と語り、今後10年間の防衛・安全保障の指針となる新たな「戦略概念」を採択。危機に対応する即応部隊を来年以降、4万人から30万人に大幅に増強することなどでも合意したことも発表した。
だがプーチン大統領は、フィンランドとスウェーデンの加盟によるNATOの拡大について、「メンバーになりたいのであればどうぞ。だが理解しておいてほしい。以前なら脅威がなかった場所に部隊や軍事インフラが配備されるのであれば、相応の対応をしなければならない」と警告。ウクライナへの侵攻についても、「すべてが計画通りに進んでいる。そのため、期限について話す必要はない」と相変わらず強気の姿勢を崩していない。
そんなプーチン氏の”強気の背景”にあるのが、「米バイデン大統領の支持率低下にある」というのは、米ロ問題に詳しいジャーナリストだ。
「米国では、今年11月8日に行われる中間選挙で、連邦議会上院の議席の3分の1(34議席)、および下院の全議席(435議席)改選が行われるわけですが、実は40%台を推移していたバイデン大統領の支持率が過去最低の36%まで下がっているんです。これはインフレや銃規制、密入国者の問題等々、バイデン氏の政策がことごとくうまくいっていないことの証。結果、米国内での犯罪が急増。それが支持率低下に拍車をかけている。民主党内からも『このままいけば中間選挙で大敗し、大統領選挙で勝てない』という懸念の声が高まり始めたと伝えられています」(同)
ところが、国内情勢が不安定な中、バイデン氏はウクライナに対し、地対空ミサイルシステム2基を含む8億ドル(約1100億円)規模の追加軍事支援を発表するなど、継続して全面的な支援を行う考えを示している。
「NATOの動きはその中心国である米国の国内情勢の影響がもろに反映されますからね。仮に米中間選挙で民主党が敗北した場合、米国内の世論の反発によりロシアに対する姿勢が変わる可能性も考えられます。実際、米国内でのウクライナ情勢への関心は随分薄らいでおり、共和党が勝つとウクライナに対する支援は弱まると見られている。トランプ氏は以前、ロシアのウクライナ侵攻に関し『責任はすべてバイデン大統領とそれほど賢くないNATO諸国にある』とも語っていますからね。プーチン氏もそういった米国内の情勢をリアルタイムで見聞きしているはずで、それがプーチン氏を強気にさせている要因だと考えられます」(同)
つまり、プーチン氏はバイデン大統領が中間選挙で敗れ、自壊するまでじっくり腰を据えて待っている可能性もある、というわけか。
2月にフロリダ州で開催された「保守政治行動会議」の演説で「アメリカは自分のリーダーシップの下では強力で、狡猾で、賢い国だったが、今は愚かな国になった」と、バイデン政権を痛烈にこき下ろしたトランプ元大統領。現在、人気急下降中のバイデン氏に代わり、そのトランプ氏の人気が上昇しているというが、プーチン氏はそんな米国の情勢をどう見ているのだろうか。
(灯倫太郎)