世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「阪神の完封負け地獄にモノ申す」

 ほんまに打てない。阪神が5月31日、交流戦の西武戦で今季13度目の完封負けを喫した。今年のプロ野球は全体的にかなり投高打低やけど、阪神は特にひどい。5月を終えた時点で約4試合に1回のペースで完封負け。そのうち0−1の試合が6度。それも息詰まる投手戦ならともかく、言ってしまえば貧打戦。せっかく球場の入場制限がなくなったんやから、同じ負けでもファンのために盛り上がる試合をしないといけない。

 開幕からずっと同じことの繰り返しで、とにかくチャンスであと一本が出ない。もちろん、相手バッテリーもピンチになったらギアを上げるし、コントロールにも気をつける。打者はそれを上回る集中力や粘りで対処しないといけない。食らいつく姿勢もなく、裏をかかれたような見逃し三振も多い。技術にしろメンタルにしろ、貧打の原因はひとつではない。

 1点も取れないというのは、ベンチの責任も大きい。5月26日の楽天戦(甲子園)では0−0の8回二死二塁で二塁走者の捕手・長坂に代走を出さず、近本の左前安打で本塁タッチアウト。完封負けの会見で矢野監督は延長戦のことも考えて、勝負しきれなかったと悔やんでいた。8回一死一塁で代打・北條にバントを決めた時点で動いてほしかったな。ベンチには代走要員の植田、熊谷が残っていて、代わりの捕手は坂本、片山が残っていただけに、もったいなかった。

 9回打ち切りの昨季は、代走をどんどん使う積極的な矢野采配が光ったけど、今年は代走、代打を送るべき場面で動けないことが多い。出し惜しみせず、延長戦で選手が尽きたら、それで仕方がないと割り切るぐらいでないと。たとえ捕手がおらんようになっても、延長戦の1イニングぐらいなら、アマチュア時代の経験者の誰かに無理やり守らせればいい。優先すべきは9回までに相手より1点でも多く取ることと、負け試合ではまず追いつくことなんやから。

 今年の矢野監督は選手起用だけでなく、作戦面でも消極的になっている。大胆な作戦は取れなくても、高校野球のようにバントやスクイズを多用するのも手だけど、それもない。結局は選手が打ってくれるのを待つだけの状態になっている。守っているほうとすれば、盗塁やヒットエンドランでかき回されるのが一番やりづらい。日本ハムの新庄監督が一、三塁での重盗や、ランナー三塁でのヒットエンドランを仕掛けてくるけど、あの積極姿勢は大事。黙って見てても打ってくれるメンバーがそろっているわけではないから、ベンチが点が入るように仕掛けていかなアカン。

 投手陣は口には出さなくても、内心、腹が立っていると思う。打ってくれないことには勝ち星はつかないんやから。僕の現役時代は投手を見殺しにしたら「悪かった。今度借りを返すから」と声を掛けて、次の試合では必死になって援護した。それが投手と野手との信頼関係。「野手は何してるねん」ばっかりでは、チームは空中分解してしまう。

 5月は11勝13敗で、開幕から3カ月連続の負け越しとなり、首位ヤクルトまで12.5ゲーム差。早々に自力優勝の可能性も消滅した。チーム防御率はリーグトップで、投打の歯車さえ噛み合えば下位から浮上する力はあるはず。今季限りで退任が決まっている矢野監督の意地に期待したい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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