大国ロシアが抱える難問は、国内専門のスパイ機関であるFSB、破壊工作などを行う軍属スパイ機関のGRUという2つの組織間の不協和音にとどまらない。もうひとつのスパイ機関であり、国外の情報を収集する対外情報庁(SVR)も一枚岩とはいかないようで、
「ウクライナ侵攻の直前、2月21日に行われた安全保障会議で、ナルイシキンSVR長官がプーチン大統領から叱責に近い問答を受け、動揺して返答に詰まる映像が公開されました。数少ない側近中の側近で、しかも重要組織の長であるナルイシキン長官でさえこのような扱いを受けたという事実は、SVR内部に大統領に対する不信感を芽吹かせたとしてもおかしくないでしょう」(山田氏)
また、侵攻以後のロシア軍にも綻びが目立つようになった。ひとつは、戦場に身を投じるロシア兵の質の低下だ。前出の山田氏によれば、
「ロシアの軍隊には職業軍人だけでなく、徴兵制に基づき任期1年の徴集兵が配置されます。4月が入れ替えの時期で、先ごろ新規の兵も入隊しました。プーチン大統領は『ウクライナ侵攻に徴集兵は投入しない』と語っていたのですが、実際には徴集兵も関係なく紛争地に送られていたことが明らかになっています」
ツイッターなどのSNSでは、「軍事訓練だと騙されてここに来た、上官に騙されたんだ!」と泣き叫ぶ、捕虜となった新兵の映像が出回っている。告発の声がロシアに届けば、士気の低下は免れまい。
続いてロシア国内で問題視されているのが、戦死者遺族に対する不誠実な対応だ。
プーチン大統領は侵攻開始まもなくの3月3日、国家安保会議の席上で、
「特別軍事作戦の過程で亡くなった軍人家族たちには、法で定めた保険金と慰労金を合わせた補償金が支給されるだろう」
と発言した。ロシア政府は戦死者一人あたり、約740万ルーブル(約1428万円※5月13日時点のレート1ルーブル=1.93円で換算)を遺族に補償し、今回の軍事作戦に関しては一時金500万ルーブル(約965万円)を上積みすることを公表している。
戦勝記念日には、第二次世界大戦の戦没者を悼むパレードに出席した際、プーチン大統領は遺族との一体感を国内外にアピールしたが、こと今回のウクライナ侵攻に限っては手厚いはずの補償に〝抜け穴〟が指摘されている。
「4月中旬に黒海でウクライナ軍に攻撃され沈没した巡洋艦『モスクワ』ですが、乗船し亡くなった兵士の遺族は、『同艦はウクライナの作戦に加わっておらず、沈没は別の何らかの事故によるものだ』という説明を受けたそうです。つまり、戦死者ではない、ということ。当然ながら補償金も支払われません」(山田氏)
この件に限らず、ロシアは戦死者の過少申告を行っているフシもあるようで‥‥。
「国内の動揺を封じるため、と言えば聞こえはいいですが、ウクライナで亡くなってもそれが遺族に通知されないケースも出てきている。当然、遺族の不満は爆発し、軍や政府への不信感が強まります。戦闘にかかる費用すら危ういロシア軍にとって、戦死者の補償などは二の次になる。それが結果的に新兵を含む内部からの反乱を引き起こしかねない」(通信社記者)
まさに内憂外患の様相なのだ。
*プーチンが怯える「反ロシア義勇軍」の正体【3】につづく