プーチンが怯える「反ロシア義勇軍」の正体【1】不満を抱く亡命スパイ

 自身の大義に従って決断したはずの「ネオナチ打倒」に、世界中から「NO」を突きつけられたプーチン大統領。ウクライナの制圧地域では徐々に押し戻され、経済面でも亡国へのカウントダウンが聞こえ始めて‥‥。西側諸国の軍事支援にとどまらない「反ロシア勢力」によるプーチン包囲網を徹底解説する。

「NATO加盟国は、我が国に隣接する地域の積極的な軍事開発を始めた。我々にとって絶対に受け入れがたい脅威が、計画的に、しかも国境の間近に作り出された。(中略)ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た、唯一の正しい判断だった」

 5月9日の戦勝記念日、式典の演説でプーチン大統領は高らかに戦争の大義を訴えた。侵攻開始から2カ月半が経った現在、ロシアとの国境付近に位置するウクライナ東部地域では両軍がまさに一進一退。一度はロシア軍が街や集落を支配下に置いても、再び攻勢に転じたウクライナ軍が奪還する、という状況が繰り返されている。

 その一方、くだんの演説では、かねてから噂されていた「戦争宣言」が出ることはなく、自国の正当性を訴える内容に終始した。国際ジャーナリストの山田敏弘氏がその理由を解説する。

「そもそもウクライナの首都キーウへの侵攻は、72時間以内に一気に制圧し政権をすげ替える電撃作戦の予定でしたが、結局ずるずると長期戦になってしまった。長引けば長引くほど、経済面での不安も大きくなり、国民の不満も高まるので、プーチン大統領としては早期決着を図りたい。今や戦闘地域は親ロシア派が多い東部に限定されましたが、とことんまで戦う『戦争』ではなく、あくまで『軍事作戦』。しかも、自国を守るために仕方なく行った、というのが演説の主旨になったのです」

 世界中から非難を浴びても、国内に限っては絶対的な指導者であるプーチン大統領。先の演説シーンも、国民にはさぞ勇ましく、正義の戦争に映ったことだろう。だが、実際にはウクライナ侵攻の余波で、国内にも「不満分子」の影が見え隠れするようになってきたというのだ。山田氏が続ける。

「ウクライナ侵攻の情報戦における指揮権は当初、FSB(連邦保安庁)の第5局が担当していました。FSBは過去にプーチン大統領が長官を務めた、国内の防諜や防犯を担う情報機関です。しかし『キーウから撤退を余儀なくされたのはFSBの作戦に不備があったから』として指揮権を剥奪。今後はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が作戦を主導することになりました」

 これが単なる指揮権の移動ではなく、FSBの職員150人が組織を追放された、という情報もあるため、なかなかにキナ臭い話なのだ。通信社記者が言う。

「英『タイムズ』紙がすっぱ抜いたのですが、中には逮捕された職員もいたという話です。制圧失敗がよほどプーチンの逆鱗に触れた、ということでしょう」

 その後の報道では、FSBトップのボルトニコフ長官が更迭されるという話まで出てくる始末だ。山田氏が語る。

「今後はプーチン大統領から冷遇されかねず、不満を抱く職員も少なからずいるでしょう。イギリスなど欧州諸国にはこれまでも『元FSBスパイ』のロシア人たちが亡命し、各国と協力体制を取ることがよくありましたし、今回の措置で他国への情報漏えいが加速する下地が出来上がったとも思えるのです」

 プーチン独裁体制が丸裸にされる日は─。

*プーチンが怯える「反ロシア義勇軍」の正体【2】につづく

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