ロシアはFSB(ロシア連邦保安庁)、SVR(ロシア対外情報庁)、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がそれぞれサイバー部隊を持っている。
実績でいえば、16年の米大統領選でクリントン元国務長官に不利な投稿を拡散するなど、SNSを通じた世論工作で介入。15年と16年にはウクライナのインフラにサイバー攻撃を仕掛け、電力供給をストップさせたことも。だが、ウクライナ侵攻においてロシアのサイバー部隊は目覚ましい成果をあげていなかった。その理由について山田氏が続ける。
「アメリカはサイバー戦略を担う専門部隊のサイバーコマンドとNSA(国家安全保障局)に加え、マイクロソフトなど民間の関係者もウクライナに入って、ロシアとの有事に備え、昨年10月までにサイバー攻撃を受けた時の準備を済ませていました。攻撃自体を未然に防ぐことはできませんが、迅速に対応すれば問題はなく、侵攻後、ロシアのサイバー攻撃に関してウクライナは無傷と言っていい。ロシア側の通信も傍受できているし、情報戦でロシアは完敗しています」
米国に先手を打たれたことで、開戦前からお手上げ状態だったとはなんともお粗末なかぎり。市民虐殺の報道でも、ロシア兵の無線通信の会話が次々と明るみに出て、一部始終が傍受されていることをさらしてしまった。
それにしても、なぜ米国は軍事同盟を結んでいないウクライナにここまで肩入れするのか。山田氏の見立てによれば、
「簡単に言えば、ロシアの力を削ぐために追い詰めたかったのです。ウクライナ侵攻の直前までアメリカ政府が気にしていたのは、中国とロシアがこれまでにないほど接近していたこと。覇権を狙う中国にロシアが協力すれば、アメリカにとっては煩わしいだけ。今の段階ならロシアの力は熟知しているのでウクライナを舞台にロシアを叩けるし、トランプ前大統領(75)が自国主義でぶち壊してバラバラになった欧州と結束することで、中国を牽制するメッセージでもあったのです」
近年の習主席とプーチン大統領といえば、2月4日に北京で中ロ首脳会談を開き、共同声明で北大西洋条約機構(NATO)の拡大反対や、「友情に限界はなく、協力する上で『禁じられた』分野はない」と宣言。歴史上で最高と言われるほど距離を縮めていた。
これ以上、覇権争いを繰り広げる中国がロシアと「悪夢の合体」をして図に乗らないように、是が非でもくさびを打ち込む必要があったのだ。
*「週刊アサヒ芸能」4月21日号より。【4】につづく