最高な日本シリーズやった。毎試合、ハラハラ、ドキドキ。全試合が接戦でほんまに面白かった。僕は初戦と、ヤクルトが日本一に輝いた6戦目に球場の解説席に座った。6戦目は延長12回の5時間の戦い。球場を出たのは夜11時半やったけど、緊張感がある試合で全く長くは感じなかった。オリックス、ヤクルトのファン以外もテレビの前で楽しめたと思う。結果的にはヤクルトの4勝2敗に終わったけど、どの試合も紙一重で、どちらが勝ってもおかしくないゲームばかり。これぞ頂上決戦と言える戦いやった。
ヤクルトの勝因は、投手陣の頑張り。これがいちばん大きい。奥川と高橋がいいのは分かっていたけど、ベテランの石川や原樹理、高梨ら他の先発投手がきっちりと役目を果たした。そして、高津監督の抑えのマクガフの使い方が絶妙やった。初戦と5戦目はマクガフが打たれて落としたけど、最後まで信じきったのはさすが。自分自身も現役時代に同じ役割をしてきたから、打たれたあとの気持ちもよく分かるんやろな。プライドを傷つけることなく起用して、日本一決定の場面でもマウンドに上げた。
逆にオリックスは絶対的なエースの山本由伸が2試合とも勝ち投手になれなかったのが、計算違いやった。初戦は6回1失点で負け投手になるところを味方が逆転して勝てたけど、5戦目は9回1失点の力投が報われなかった。沢村賞を獲得した力は見せたものの、打線の援護には恵まれなかった。初戦は球数が多かったし、ヤクルトの打者が簡単にはアウトにならなかった。必死で食らいついてくるから、ピンチも多かった。重苦しい投球になってしまったことで、野手の攻撃のリズムにも影響を及ぼした面はある。
後輩たちにはリベンジを期待したけど、歴史は繰り返す。阪急時代にヤクルトとの日本シリーズは2回とも負けていて、3回目もまた勝てなかった。それと、日本一になれずに球団が消滅した近鉄の呪縛もやっぱり解けなかった。オリックス・ブルーウェーブは05年に大阪近鉄バファローズと合併し、球団名はオリックス・バファローズになった。近鉄は日本シリーズに4度出たけど、日本一の夢は果たせぬまま終わっていた。合併した両チームのファンはいまだに複雑な思いを抱えている。日本一になれば、気持ち的に少し晴れる部分もあったんやけど。
オリックスにとって大事なのは来年やね。負け癖がついていたチームが、2年連続の最下位からまさかのリーグ優勝。日本シリーズでも接戦を演じることができた。でも、選手たちはこれで満足してたらアカン。あと1点が取れず、あと1点を防げずに負けた悔しさを練習にぶつけて、リーグ連覇を目指さないといけない。宮城、紅林ら若い選手は大舞台を経験して、来季はさらなる飛躍が期待できる。ラオウこと杉本も今年つかんだものは離さないはず。山本由伸、吉田正尚と日本球界を代表する投打の柱もいる。来年はほかのチームのマークも一段ときつくなるけど、簡単に崩れるようなことはないと思う。
オリックスは、同じ関西の球団の阪神に人気で負けており、マスコミの扱われ方も全く違う。それでも、今年の頑張りでファンも増えたし、注目度も上がっている。勝ち癖をつけて、もっともっとファンを増やしてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。