急転直下の監督オファーの背景には、球団の悩ましい経営状況が顔を覗かせている。スポーツ紙デスクの解説によれば、
「コロナ禍による入場料収入の減少で20年の収支は3900万円の赤字でした。しかし、コロナが言い訳にならないぐらい球団の収益は悪化の一途を辿っています。日本一になった16年の8億2000万円がピークで、18年は7億4000万円、19年は4億7000万円と下がる一方なのです」
火の車の経営状況に追い打ちをかけるのが、北広島市に移転する新球場の建設費用である。
「広大な土地代はタダですが、上物だけで総工費600億円と言われる。大谷翔平(27)やダルビッシュ有(35)のポスティング譲渡金を充てましたが、10%程度にしかならない。残りは中国の投資ファンドからの借金。これからローン地獄ですよ」(球団関係者)
大枚をはたいて建設中の新球場だが、札幌市内の飲食店経営者曰く、
「北広島に移転したら接待に使えなくなるな。得意先とビールを飲みながら観戦した後にすすきのの歓楽街に繰り出すのが王道ルート。ところが、札幌ドームから3000円だったタクシー代が1万円を超えるようになる。いくら経費だからって足代が高すぎる。これじゃ、年間シートを買う中小企業の経営者は、チームの成績低迷も相まって大幅に減るだろう」
深刻なファン離れが懸念される球団の救世主として担がれたのが希代のエンタメ王、新庄だった。
かつて日本ハムでチーム統括本部長を務めた、三沢今朝治氏は「札幌移転1年目の新庄のカリスマ性が目に焼き付いている」と振り返り、こう続ける。
「前年の入団会見で『札幌ドームを満員にする』『チームを日本一にする』と宣言し、引退するまでに有言実行。事前のリサーチでは、巨人ファンが9割を占めていた北海道民の心を虜にしてしまいました。そして何より最大の功績は、当時のどこか引っ込み思案だったチームメイトの意識をガラリと変えた点です。被り物やハーレーで登場するなどの『新庄劇場』は、己が目立つ以上にチームメイトの士気を上げるメッセージ性が強かった。今オフからハムは盛り上がりますよ」
とはいえ、新監督が誕生しようが、大きな補強を望めないチーム事情では、劇的な浮上は難しい。むしろ勝利は二の次、負けても収益アップを見込める、プロ野球の新ビジネスモデルとなるかもしれない。
*「週刊アサヒ芸能」11月11日号より。(3)につづく