世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「大山の巨人戦欠場はかなり非常識」

 オリックスが頑張りすぎるぐらい頑張っている。いよいよ、長いペナントレースの最後の直線勝負。7年ぶりのクライマックスシリーズ進出はすでに決めたけど、1996年以来、25年ぶりのリーグ優勝が手の届くところに来ている。この絶好のチャンスを何が何でもモノにしてほしい。

 野球に「たられば」は禁句やけど、この大事な局面で吉田正尚がいてくれたら、どれだけ頼もしかったことか。返す返すも死球での離脱はもったいない。10月2日のソフトバンク戦で大関から右手首付近に死球を受けて「右尺骨骨折」と診断された。

 中嶋監督が「正直、心が折れかけた」と嘆いたのも当然のこと。吉田は打線の大黒柱で代わりがきかない打者。両リーグトップの打率3割3分9厘の3番打者がおることで、前後のバッターがどれだけ楽になることか。左太腿裏の肉離れから約3週間ぶりに復帰して、わずか1週間で再離脱になってしまった。もし、日本シリーズに進出しても復帰は絶望的やろな。

 ファンの中にはぶつけた投手を非難する者もいるけど、それはお門違い。吉田には申し訳ないけど、死球をよけたり、ケガしないように当たるのも技術のうちやから。内角の球を一瞬、打ちにいってしまったから、よけきれなかった。

 吉田の代わりの3番を任されていた高卒2年目の紅林も、10月10日のソフトバンク戦で千賀の150キロの球を左手首付近に受けた。当てた千賀は試合後に謝罪していたけど、あれも逃げ切れなかった紅林が悪い。骨折に至っていないのがまだ救いやった。

 今の選手はエルボーガードやら、いろんな防具を付けているから、ボールのよけ方が下手になった。僕らの現役時代は剝き出しで打席に立っていたし、わざとぶつけられることもしょっちゅうあった。常に危ないところに来るものという備えがあった。レギュラーで出だした頃に、先輩から最初に「パ・リーグでは内角をさばけんと生きていけんぞ」と言われた。それは打つだけでなく、うまく逃げなアカンという意味も含まれていた。

 投手が内角を投げて打者をのけぞらせるのは技術の一つ。東尾なんか「当たるほうが悪い」と、ぶつけても平気な顔で得意のシュートを投げ続けていた。打者にとっても内角をえぐられたあと、腰を引かずに外角の変化球に食らいつけるかどうかが勝負。清原が高卒1年目から31本のホームランを打ちながら一度もキングを獲れなかったのも、内角攻めに苦しんだから。

 広島の衣笠さんが代表例やったけど、昔はみんなボールをよける練習をしていた。今の選手でそういう練習をしているのを見たことがない。まずグリップ、肘を隠す、そして当たる場合でも体を回転させて背中、お尻に受けるという鉄則があった。手首に死球を受けたらコーチから怒られた。

 阪神でも、大山が12日の巨人戦で「背中の張りで大事をとって」という説明でベンチ入りから外れた。7日のDeNA戦で受けた死球の影響だという。痛みは本人にしかわからないけど、優勝争いの大事な時期に、4番打者なら普通は無理してでも出るもの。「張り」で休むなんて、サラリーマンが「疲れているから会社休みます」というぐらい非常識。球団は大山のためにも、もうちょっとまともな理由を考えて発表したほうがいいかもしれん。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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