来年5月までの任期満了まで7カ月を切った韓国の文在寅大統領。現在、韓国では来年3月の韓国大統領選に向け候補者たちによる熾烈なバトルが展開され、すでに文大統領の存在感は風前の灯となっている。そんななか突然、文氏がブチ上げた「犬食の法規制」発言によって、畜産業者と動物愛護団体、さらには国民を巻き込んだ大激論が勃発している。
韓国情勢に詳しいジャーナリストが語る。
「事の起こりは先月27日に大統領府で行われた金富謙首相との定例会合。その席で、捨てられたペットを保護する管理システムの改善策について説明を受けた際、文大統領が食文化として根付いてきた『犬肉食』について、突然『禁止を検討する時が来た』との見解を示したんです。文氏は複数の犬を飼う愛犬家として知られていますが、一方18年には、『犬を家畜から除外してほしい』と訴える国民請願に対し、『犬食は古くからの朝鮮半島に伝わる食文化であり、法律によりそれを禁止することについては、慎重であるべき』とのスタンスをとっていました。それが3年たって突然、検討すると言い出したわけですからね。動物愛護団体は大歓迎ですが、当然のこと、生産者側や専門店からは大ブーイングです」
韓国では1986年のアジア競技大会、88年のソウル五輪などの国際大会開催を機に、欧米諸国からの批判を避けるため、ソウル市で犬肉販売が禁止され、店舗は大通りから裏路地に追いこまれた。
「とはいえ、韓国では食肉用として育てた犬を処理して食べることに違法性はありません。中高年男性の間では、滋養強壮、精力増強の源として今でも根強い人気があります。ただ、若者の間では犬肉食に嫌悪感を抱く者も多く、あるアンケートによれば、20代〜30代の約8割が『犬肉を食べたことがない』『好んで食べたいとは思わない』と回答しています。今回なぜ、文大統領が『犬肉食の禁止』に言及したのかはわかりませんが、任期満了を前に、これまで誰も手を付けられなかった問題に着手することで、歴史に名を刻みたいという思いがあるのかもしれません。ただ、『民族の食文化を冒涜するつもりか』との批判もあり、とても数カ月で白黒がつく問題ではない。そのため国民からは、大統領の思い付きのパフォーマンスとの声も上がっています」(前出・ジャーナリスト)
かつて、韓国のラジオ番組に電話出演したフランス人女優のブリジット・バルドーが「犬肉を食べる韓国人は野蛮人だ」と主張。「フランスにも犬肉を食べる人がいることを知っているか」との問いに、バルドーは「そんな事実はない」と激怒し、「そんな嘘を言う韓国人とはこれ以上話せない」として電話を一方的に切ってしまったというエピソードもある。日本、アイスランド、ノルウェーの鯨食にも国際的批判があるように、国や民族によって食文化は異なるため、理解する上での難しさがあるのは事実だろう。
そんな中、文大統領が国内から投じた一石。任期まで半年で、どんな結果をみるのだろうか。
(灯倫太郎)