世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「オリックスよ、優勝せなアカンぞ!」

 かわいそうで仕方ない。掛ける言葉も見つからないぐらいや。オリックスの西浦颯大が22歳の若さで引退を発表した。国の指定難病「両側特発性大腿骨頭壊死」が悪化し、復帰をあきらめることになった。高卒2年目から開幕戦の2番センターで起用されるなど、将来の有望株やった。

 長打も打てるシャープな打撃で、足も速い。春季キャンプに臨時コーチで行った時も、西浦に対する球団の期待の大きさをずいぶん感じた。ファンと会話しても「西浦はどうですか」と聞かれることが多かったし、他球団の関係者からも「アレはいい選手になりますよ」という声をよく聞いた。

 高卒4年目はヤクルトの村上と同期。本来ならこれから主力として、チームを引っ張っていくべき選手やった。本人が一番悔しいと思う。昨年11月に発症し、医者から「野球は無理」と言われても、復帰をあきらめず手術を受けていた。育成契約になりながら、リハビリに励んでいたけど、歩くこともままならない状況で、つらい決断をするしかなかったんやろな。

 9月26日には優勝争いをする1軍の試合前のベンチに入り、「僕のためと思って優勝してください。優勝してもらわないと困ります」と、円陣で声出しを務めていた。その言葉を聞いて奮い立たない選手はおらん。野球がしたくてもできない、練習したくてもできない者がおるんやから。優勝争いの中で試合ができることを幸せと感じなアカン。シーズン終盤の疲れや、プレッシャーなんて関係ない。最後は「あれだけ練習してきたんやから負けるはずがない」と、どこまで自分を信じられるか。西浦の花道を飾るためにも、気合を入れて戦い抜いてほしい。

 オリックスでひとつ心配なのは、今季は山本由伸とともに先発2枚看板で頑張ってきた高卒2年目の宮城の勢いがなくなってきたこと。8月までに11勝を挙げたけど、9月は3度の先発機会で白星なしに終わった。調子が落ちているというより、相手が球筋に慣れてきたのが大きい。何度か対戦して、スライダーの曲がり具合などが分かると、プロはきっちり対応してくる。そこからが投手と打者の本当の勝負。ヨシノブみたいに「対策が見つからない」と相手に思わせてこそ、本物のエースと言える。

 明るい材料としては、今季中の復帰が心配された吉田正尚が9月26日の楽天戦で1軍に戻ってきたこと。左太腿裏の肉離れから、わずか3週間ほど。優勝争いをしているチームのために、突貫工事で仕上げてきた。中途半端な形で復帰すると、またブチッといく箇所やけど、だましだましプレーするしかない。やっぱりマサタカがいるかいないかで打線は全然違う。

 9月を首位で終えたロッテは、確かにしぶとく、粘り強い。それでも昨季までの王者・ソフトバンクと比べたら、頑張ったら何とかなる相手。楽天、それこそソフトバンクも大逆転をあきらめていないけど、オリックスにとっては千載一遇のチャンス。1996年以来の優勝は、ファンを待たせすぎや。釣りで例えると、大物がかかったのに糸が切れたらガックリ。かかった魚はきっちり釣り上げないとアカン。泣いても笑っても、ここからの1カ月弱の戦いで決まる。緊張感を持ってグラウンドに立てることを選手冥利と感じながらプレーしてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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