D デルタ株による第5波の感染爆発を目の当たりにして、官邸も政府も与党もパニック状態でうろたえている、というのが偽らざる実情です。加えて政府分科会を含めた官邸内では今、「新型コロナ禍は永久に終息しない」との観測が広がり始めており、菅総理も「もうこれはお手上げだな‥‥」との認識を強めていると聞いています。
─永久に、ですか!?
D はい。ただ、それでも国としては何もしないというわけにはいかない。そこで打ち出されたのが、C先生も指摘されたように、場当たり的としか言いようがない時間稼ぎの弥縫策でした。とりわけ国のうろたえぶりを如実に示していたのが、菅総理が打ち上げた例の「入院制限」です。
A あれはひどかった。人工呼吸器などを必要とする重症者以外の入院を制限すれば、自宅療養中の中等症患者から大量の死者が出ることは確実ですから。頑として撤回を口にしなかった菅総理はその後、一部の中等症患者に対する入院制限を緩和しましたが、軽症患者ですら一気に重症化してしまうケースは数多くあり、入院制限がもたらす危険性はほとんど変わっていません。それでも愚策は強行されるようですから、新型コロナ禍の下で間違いなく自宅大量死の局面を迎えることになるでしょう。
D 実は入院制限策は、病床調整の責を負う厚労省サイドが、入院できない重症患者から死者が続出して世論の批判を浴びることだけはなんとしても避けたいとの一心から、官邸に持ち込んだものでした。その厚労省の口車に乗せられる形で、菅総理はゴーサインを出してしまったのです。
─オソマツな話ですね。
D しかも厚労省は新型コロナ対策分科会を含め、関係先への根回しを全くしていませんでした。それもアダとなって菅総理はマスコミから袋叩きにされたわけですが、総理が入院制限策のデタラメを事前に見抜いてストップをかけるか、せめてキッパリと撤回していれば、こんなことにはなりませんでした。ただ、それ以上に問題なのは、いかに絶望的なパニック状態にあるとはいえ、官邸が「新型コロナ禍は永久に終息しない」との認識を隠して、入院制限に象徴されるエセ集団免疫策をなおも続けようとしている点です。
─そこですよね。実際、みなさんも「永久に終息しない」とお考えですか。
A 「やがて終息する」と言える材料がありません。先ほど指摘したように、デルタ株の場合、ワクチン接種率の問題だけを見ても、すでに集団免疫シナリオは崩れ去っています。それだけではありません。驚くべきことに、たとえワクチン接種をきちんと2回受けたとしても、高確率で再感染してしまうことが明らかになってきているのです。
─いわゆる「ブレイクスルー感染」ですね。
B ワクチンの種類、統計の取り方などによってバラツキはありますが、これまでに公表された国内外のデータを総合すると、ワクチン2回接種後の再感染率は30%から70%に達するとみられているのです。中間値を取っても実に50%。ただし、公衆衛生学を専門とする立場から言わせていただければ、最悪のケースを想定するという危機管理の原則上、「ワクチン接種を2回受けた人の3分の2がブレイクスルー感染する」と警告しておかなければならないと考えています。
C しかも、諸外国の最新データを見ると、デルタ株の場合、ブレイクスルー感染者の体内に存在するウイルス量はワクチン未接種感染者のそれと同じであることも明らかになってきています。加えてデルタ株感染者のウイルス量は、従来株感染者のおよそ1000倍に達することもわかってきているのです。つまりワクチン接種者といえども、再感染してしまえば従来株の1000倍のウイルス量で感染を拡大させてしまうという、想定を超絶した危機が第5波の渦中で浮上してきているのです。
A=感染症専門医/B=公衆衛生学の専門家/C=ウイルス学の研究者/D=政府関係者
*「週刊アサヒ芸能」8月26日号より。(3)につづく