8月8日告示、22日投開票の横浜市長選だが、カジノの賛否を巡って過去最多の9人が名乗りを上げて乱戦、もはや事前の予測はほぼ不可能な状態となっている。
主な候補者を上げれば、以前はカジノ推進派だったものの国家公安委員長の大臣職を辞してまで反対派に回った小此木八郎氏、カジノ反対派の象徴として立憲民主党が推薦、共産党、社民党が支援する山中竹春・元横浜市立大学教授、現職の林文子・横浜市長。そこにカジノ反対派として郷原信郎・元東京地検特捜部検事(弁護士)、田中康夫・元長野県知事(作家)、松沢成文・前神奈川県知事(参院議員)といった有名人が加わった。このうちカジノに賛成なのは、現職の林氏と福田峰之・前衆院議員だけだ。
もちろんカギの握るのは“みなと”(横浜港運協会)の前会長で、「ハマのドン」と呼ばれてカジノは断固反対の立場を取る藤木幸夫氏の動向だ。
「菅首相は小此木さんのお父さんの彦三郎・元建設大臣の秘書を務めていましたが、その小此木さんの盟友が藤木さんで、小此木家と藤木家は3代にわたる付き合い。ですから、小此木さんが菅さん肝いりで自らも推進派だったカジノに反対を唱えて市長選に立候補した際には、『藤木さんの顔色を窺った』とも揶揄されましたが、そんな単純なものではないでしょう」(全国紙記者)
事実、それで菅首相と小此木氏とは反目するはずだったが、7月29日付けの地元タウン誌では2人してちゃっかりと対談。最後に「小此木さんの政治活動を全面的かつ全力で応援します」と菅首相が言い切っていることで、タウン誌でありながら永田町でもその存在が話題になったほどだ。
小此木氏が間に入ることで3者の関係は“シャンシャン”になったかと思いきや、藤木氏は7月17日にカジノ反対派の急先鋒である山中氏の事務所開きに出席して全面支援を表明。ところがその藤木氏、8月3日に開かれた日本外国特派員協会の会見では、「山中さんのことは何も知らない」と発言し、周囲を煙に巻いた。その一方で、「でも当選するのは八郎でしょ」「わたしゃあ、八郎の名付け親」とまで言い出し、周囲を翻弄するばかりなのだ。
「複雑なように見えますが、藤木氏の現在の立ち位置を見れば全体がスッキリします。2015年に横浜市が山下埠頭の再開発計画を発表、17年に林市長がカジノを白紙として市長に当選、そして19年に白紙を撤回してカジノ誘致を表明したところから藤木氏が断固阻止で立ち上がります。この間、藤木氏は4半世紀もの間務めた横浜港運協会の会長職を息子さんに譲り、85年の開局に尽力した横浜エフエム放送の社長を副社長に委ねて、19年5月に設立された横浜港ハーバーリゾート協会(YHR)の会長職に専念しています。このYHRが山下埠頭の再開発をリードしているわけで、そこに後から藤木氏の与り知らぬ所からカジノの設置案が持ち上がってきた。言ってみれば『オレのシマに勝手に手を突っ込むな』というわけです」(地方行政に詳しいジャーナリスト)
その藤木氏が“一応”の支援を表明した山中氏も、カジノ反対派の票を集めて優勢とは言えない。そもそもカジノ反対派が乱立して票が割れる可能性が高い。さらには市長としての適性を問題視する向きもある。
「藤木氏が『何も知らない』と答えたのも、写真週刊誌の『FLASH』が報じた山中氏のパワハラ疑惑について問われたからで、そもそも山中氏はコロナワクチンの効果に関する専門家で、行政はもちろんのこと素人。そもそも横浜市がカジノの誘致に動いたのも、市が抱える脆弱な財政基盤を解決するための決め手としたわけで、カジノに関係ない内陸部では福祉や子育てなど、生活に直結した政治論議からカヤの外に置かれているといった声があって、候補者選定を一任された江田憲司・立憲民主党代表代行の決定に反発する声があります」(前出・ジャーナリスト)
数少ないカジノ推進派の林氏もおそらくは苦戦だろう。自民と公明は自主投票を決めたので、そもそもが自民から見放された林氏についていく人間がどれだけいるのか。小此木氏が出馬会見の際、「IR自体は賛成だが、横浜では理解が得られず、環境が整っていない」として、カジノ自体を否定していないことで、小此木にも推進派の期待が首の皮1枚つながっていると見る向きもある。
菅首相のお膝元で行われる激戦。結果によっては秋の衆院選の政局に一気になだれ込むことになりそうだ。
(猫間滋)