さらに治安の悪化について言えば、カジノであれテーマパークであれ、実は観光集客に優れた施設のある地域の治安は確実に悪くなるという現実があるという。
「例えば、FBIが公表している犯罪統計の過去の数字を見ても、ネバダ州のラスベガスとディズニーリゾートなど複数のテーマパークが集まるフロリダ州オーランドと全米平均を比べた場合、10万人当たりの重・軽犯罪の発生件数は、ラスベガスがおおよそ全米平均に近い数字で推移している一方、オーランドはより高い数字を示しているんですね。というよりも、ラスベガスはカジノでもっている町なので、地元の警察や関係諸機関にとって治安こそが最大の関心事であり、経済基盤を支えるものとなっている。だから、ラスベガスの繁華街では、アメリカの都市としては異例の自転車による警察官の巡回が行われ、防犯カメラの設置台数も非常に高水準となっています」(カジノに詳しいジャーナリスト)
ちなみに人口100人あたりの犯罪件数で見た場合、関内駅や元町・中華街駅、赤レンガや山下公園そしてもちろん山下ふ頭がある横浜の中区の治安の悪さは全国で58位、いろいろ取りざたされる同じ神奈川県内の川崎市川崎区の81位より上を行っている。
青少年への影響と言った場合、具体的にどんな事態を指しているのかは不明ながら、これは依存症や治安対策にも係ることなのだが、少なくとも日本におけるカジノにおいては、厳しい入退場管理制度が敷かれるはずなので、依存症履歴がある人物や反社会的勢力、ましてや未成年の入場は叶わないシステムになるはずだ。
「日本のIR推進での参考例とされるシンガポールでは、入退場は『全管理性』が敷かれ、①本人の申請による『自己排除』、②家族の申請による『家族排除』、③行政が定めた一定基準で全国民に適用される『第三者排除』の排除システムが採用されています」(同前)
これらの意見をまとめると、つまり日本におけるIRでは、先行諸国の実例を参考にしながら、カジノ反対の反対理由を織り込んだカジノ案が検討されているというのだ。
一方で、賛成意見にも首を傾げざるを得ないものもあった。ある地元商店会長が登場し、ネットショッピングに押されてシャッターが下りつつある商店街の活気を取り戻すためにIRに賛成と言っていたのだが、
「往々にしてIRは宿泊・飲食・買い物・エンターテインメントの全てを一体で提供する『囲い込み型』の観光施設なので、客が周辺地域に金を落とすことはないんです。横浜の誘致が周辺地域の振興策まで視野に入れた誘致ならそれも可能ですが、既にして多数の観光施設が密集している土地柄を考えれば、ないものねだりをしているように思えますが、実際はどうなんでしょうかね」(同前)
そしてこれは、賛成派の意見全てに共通することだ。振れば金が出て来る“打出の小槌”のようにIRを考えているのであれば、既に封殺されているはずの反対派の意見が正鵠を射るものともなりかねないだろう。
(猫間滋)