新型コロナウイルスワクチンの接種歴を渡航先で証明する「ワクチンパスポート」(予防接種証明書)の申請受け付けが、先月26日からスタートした。
申請のためには、パスポートのほか、自治体のHPからダウンロードした「申請書」と接種済証か接種記録書などの「接種事実を確認できる書類」が必要で、これらを自治体の窓口へ提出すれば(郵送可能で手数料は無料)、よほど混んでいない限り即日発行されるとあって、事前の予想では申請開始とともに希望者が殺到するのでは、とみられていた。
ところが、受付が始まったものの、自治体の窓口を訪ねる申請者はポツリポツリという状況なのだとか。その理由を、全国紙社会部記者はこう語る。
「現段階で公的な証明書として使えるのは、イタリア、オーストリア、トルコ、ブルガリア、ポーランドの5カ国のみ。今後段階を経て拡大していく予定ですが、ワクチンパスポートを持っていれば、外国への入国時、自主隔離や陰性証明書の提出などが免除されるメリットがあり、入国の際煩わしさが軽減されることは間違いない。ただ外務省によれば、現在、日本人の入国制限を取っているのは68の国と地域で、豪州やカナダをはじめ、アジアでは中国、台湾、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナムなど、日本企業が現地駐在を置く国が多いんです。つまり、そのあたりの国が、入国制限を解除しない限り、ワクチンパスポートを持つことにさほど必要性を感じられないということ。しかも、パスポートを利用しても外国から帰国後は日本で2週間自主隔離させられますからね。そういった背景がワクチンパスポート不人気の要因だと考えられます」
そしてもう一つ、ワクチンパスポートを敬遠する理由が、”ワクチン差別と個人情報の漏洩に対する懸念“というのは、海外のワクチン事情を知るジャーナリストだ。
「そもそもワクチンを受ける、受けないというのは個人の自由。ところが、ワクチンパスポートを各国が導入、ワクチン接種済みということが出入国の条件となると、ワクチンを『受けた人』と『受けていない人』の間で不公平感が生じかねず、個人の自由侵害に当たるのでは、という意見も多い。加えて、パスポートを手に入れたことで、ワクチン接種をしたかどうかという個人情報が漏洩する可能性が高く、そのあたりもワクチンパスポートが今ひとつ盛り上がらない理由だと思われます」
現在、政府はワクチンパスポートの利用を海外渡航向けに限定しているが、反対に経営がひっ迫する日本国内の飲食店業界、旅行業界からは、ワクチンパスポート持参の場合、割引や特典を受けられるよう求める声が上がっているという。
「実際、関西地方にはワクチン接種完了で2割引きを謳う老舗旅館もあり、連日予約で一杯だと言いますからね。海外より先に国内で利用が拡大する可能性もありますね」
まだまだ、問題山積の「ワクチンパスポート」だが、ともあれ、有効な利用を望みたい。
(灯倫太郎)