世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「佐藤輝を疲れさせる采配はアカン」

 阪神が13年ぶりの首位ターンを決めた。巨人に一時は8ゲーム差の独走状態に入ったけど、前半戦を終わって2ゲーム差。追い詰められたけど、なんとか1位で折り返した。今のところ、開幕前の順位予想どおり、阪神、巨人の並びになっている。もともと投手力はリーグ屈指で、今年は得点力が上がったというのが、阪神推しの理由やった。

 ドラフト1位の佐藤輝も期待どおり、本塁打を量産している。前半戦首位の立役者を一人選ぶとしたら、やっぱりこの男やろな。その存在がチームを明るくしてくれてるし、同じルーキーの中野とともに活気づけた。矢野監督も何度も窮地を救ってもらった。試合後の監督インタビューで感動の涙を流した7月12日のDeNA戦(甲子園)なんて、まさにそう。9回二死一塁から代打・佐藤輝の安打からの5連打で3点差を逆転するサヨナラ勝利を飾った。

 その試合はサンテレビの解説席で見ていたけど、佐藤輝がネクストサークルに登場しただけで、球場の雰囲気が変わった。DeNAバッテリーは2ランを打たれてもリードしている場面なのに、警戒しすぎて外角の変化球でかわしにかかった。うまく拾ったヒットでつなぐと、球場は大盛り上がり。僕も思わず放送で逆転を予言してしまった。

 この試合は、9回一死で梅野がヒットで出塁したからよかったけど、すんなり3人で終わっていれば、佐藤輝の出番はなかった。スタメンを外れたのは3度目やけど、欠場は1度もなかった。打席に立てないままのゲームセットは絶対にやったらアカン。ファン投票も1位、お客さんは打っても打てなくても佐藤輝を見に来ているんやから。相手バッテリーがあれほど怖がってる打者を外す理由はない。次の日からスタメンでまた活躍しているように、疲れなんか関係ない。ベンチに座っているほうが精神的にも疲れるタイプの選手やと思うで。

 三振が多すぎるとかいう声もあるけど、三振も凡打も一緒。ここまで20本塁打はすでに新人の左打者の新記録となった。ソフトバンク・柳田の新人時代も見ているけど、佐藤輝のほうが1年目の完成度は上。このまま使い続ければ、清原の持つ新人最多記録31本の更新が見えてくる。200三振しようが関係なく、使い続けないといけない選手。失敗を重ねることによって、どんどん成長していくんやから。

「内角の速球が打てない」と注文をつけられることもあるけど、僕から言わしたら「お前らは打てたんか」となる。ましてや佐藤輝は1年目なんやから、苦手な球やコースがあって当然。周りの声に惑わされることなく、このまま強く振るスタイルを貫いていけばいい。

 でも、あの試合の矢野監督の涙は印象的やったな。確かに劇的なサヨナラ勝ちやったけど、相当、精神的に追い込まれていたと思う。ヤクルト戦のサイン盗み騒動で、ベンチでガラの悪い言葉を発してネットなどで随分と叩かれたみたいやから。それに加えて、巨人にも負け越して、だいぶ気持ちが弱くなっていた。ただ、本当の勝負はこれから。開幕前の優勝予想は今のところ当たっているけど、このまま終わるかと聞かれると、はっきり言ってわからない。巨人とのマッチレースはこれからどんどん激しくなる。矢野監督も周囲の声を気にせず、どっしり構えて采配をしてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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