ワクチン接種に乗り遅れた日本を尻目に、諸外国では大規模なスポーツイベントが開催されている。しかし、その会場では驚くべき大規模クラスター感染が発生していた。
6月18日、サッカーの聖地ロンドン・ウェンブリースタジアムで行われた欧州選手権。スコットランドvsイングランド戦の試合後、観戦に訪れたスコットランドサポーター約2000人が新型コロナ陽性となったことが判明。同大会では、21日にロシア・サンクトペテルブルクで行われた試合後にも、フィンランドサポーター約300人の感染が確認されているのだ。
この原因について、医療ガバナンス研究所・上昌広理事長が分析する。
「この衝撃的なクラスター感染を受け、変異したデルタ株は空気感染も引き起こすという可能性が高い。通常、サッカー競技場など屋外では、飛沫の小さい微粒子がエアロゾル(飛沫核)となっても風などで巻き上げられ、一瞬で自然換気が行われるため、感染することはありません。しかし、応援のために大声を出したことなどにより、大量のエアロゾルが空気中を浮遊し、それを吸い込んだとみられます」
微量なエアロゾルの吸引でさえ、感染を引き起こす変異株というわけだ。
これから真冬を迎える南半球のブラジルで行われているサッカー南米選手権でも、選手82人がコロナ陽性となるという不測の事態が起こっている。
また、オーストラリアでは、感染者の急増により6月26日から首都シドニーなど主要4都市でロックダウンに踏み切った。特に、陽性の空港送迎タクシー運転手とすれ違っただけで感染させられるという衝撃的なケースも報告されているのだが、いずれもデルタ株が原因だという。
「ただ黙ったまますれ違うだけならば、感染することはありません。やはりこれも、くしゃみなどで空中を舞っていたエアロゾルを吸い込んだものとみられます。いずれにしても、これまで日本では三密を避けるなど唾液による飛沫感染ばかり警鐘を鳴らしてきましたが、今後は空中を舞うエアロゾルに注意しなければならない」(上氏)
立ち話は15分まで、という従来のぬるい防御法では、もはや丸腰でコロナに立ち向かっているのも同然、ということか。このデルタ株の正体とは─。
「ウイルスは、人体で自らを複製することで増殖します。しかし、ある一定の確率で一部の遺伝子情報が抜け落ちたり、書き間違えるなどのエラーが生じます。多くの場合、このエラーは意味を持たないのですが、ごく一部に、致命的に増えやすいなどの進化をしたウイルスができるのです」(上氏)
凶暴化したウイルスを生み出す突然変異である。
社会部記者が語る。
「国内の新規感染者はすでに、従来の中国・武漢由来から、8割がこうした変異種に塗り替わっています。さらに言えば、その半数がイギリス由来のアルファ株だったのが、徐々に増加してきているのがこのインド由来のデルタ株なのです」
とめどない変異株の勢いは、もはや日本国内でも見過ごせない脅威となって立ちはだかっているのだ。