阪神が気持ち悪いぐらいに調子いい。今はやることなすこと成功する感じになっている。例えば、開幕から不動の4番だった大山を休ませて、5月2日の広島戦(甲子園)ではドラフト1位の佐藤輝を初めて4番に昇格させた。すると、漫画のような逆転満塁ホームランが飛び出した。矢野監督も笑いが止まらんやろね。余裕があるから思いきった手を打てるし、それがまたうまいこといく。トラ党ならずとも「優勝」という二文字がチラつく戦いぶりをしている。
コロナ禍のシーズンを乗りきるためのルール改正も追い風となっている。今季は延長戦なしの「9回打ち切り」での戦い。先発だけでなく、リリーフの投手層が厚い阪神には有利に働く。延長がない分、出し惜しみせずに投手をつぎこんでいけるのは大きい。先制すれば開幕から16連勝したように、勝ちパターンの試合をきっちり逃げ切れている。5月5日のヤクルト戦で今季初の引き分けとなったが、引き分け数は両リーグ最少。岩貞、岩崎、スアレスという勝利の方程式がほんまに安定している。
逆に守護神不在のオリックスなんて、山本、山岡、宮城、田嶋と強力な先発陣を擁しながら、勝率5割に届かない戦いが続く。ゴールデンウィークを終えた時点で引き分け数は両リーグ最多の7。野球で「たら、れば」は禁物やけど、仮にこの引き分け7を全勝していたら、パ・リーグの首位に立っている。負け試合を追いついてのものならまだしも、ほとんどが勝ちきれなかったドロー。ましてや、ペナントレースでは上にいるチームにとって勝率が下がらない引き分けは価値があるけど、下のチームは負けに等しくなる。
阪神の接戦での強さは投手力だけでなく、攻撃面にも理由がある。2年連続盗塁王の近本の盗塁数はそこまで伸びてこないけど、チーム盗塁数はリーグトップ。佐藤輝らの派手なホームラン攻勢に目が行きがちやけど、実は機動力をうまく使えている。単純に盗塁の数だけではなく、次の塁を積極的に狙う走塁が多い。矢野監督は就任当初から全力疾走の大切さを説いていたけど、3年目で矢野イズムが根づいた感じがする。マルテやサンズの外国人も一生懸命走る。これは4年連続日本一のソフトバンクと共通する強さ。他の球団の外国人なら二塁で止まるところを三塁まで進んでくれるのは大きい。
そして、ベンチも作戦面で積極的に仕掛けている。他球団からすると「えっ、そんなところでエンドランをしてくるの?」と驚くようなところで動かすことがある。たとえ失敗しても、相手バッテリーは次から警戒を強めるようになる。すると打者への集中力が薄れて、ガツンといかれる。走者を気にしすぎて四球というシーンもよく見る。阪神の打者は自信を持って戦っているけど、逆に相手は自信なさげに戦っている。こうなると、阪神中心の流れは変わらない。
でも、やっぱり阪神からすると、怖いのは巨人。さっきの引き分けの数でいうと、リーグ最少は阪神やけど、最多は巨人。オリックスと違って勝ちきれなかったというよりも、ギリギリ追いついたり、かろうじて勝ち越しを防いだというものが多い。優勝争いの一騎打ちになれば、勝ち方を知っている原監督の存在は大きい。やっぱり面白いシーズンになりそうやで。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。