実生活において「失敗を糧に」という言葉はよく聞かれるが、それは、名手・菊池涼介内野手にも当てはまるようだ。
「エラーした翌日の4月3日(対DeNA)、本塁打を放ちました。今さらではありますが、攻守の両方でチームを牽引している選手だと再認識させられました」(プロ野球解説者)
広島・菊池が2019年9月16日以来となるエラーを記録したのは、4月2日。昨季は503度の守備機会を無失策で終え、二塁手としては、プロ野球初の快挙も成し遂げていた。3シーズンにまたがる569試合の無失策記録が途切れた瞬間、DeNAファンからも驚きの声が出た。佐々岡真司監督は「あれをエラーにしたらキツい」と、菊池をかばっていた。
「エラーをした日の菊池ですが、ノーコメントでした。よほど悔しかったのだと思います」(スポーツ紙記者)
翌日はバットで取り返した。そのホームランは試合を決める勝ち越し打でもあり、前日の失策は歓声によって払拭されたように見えた。しかし、その勝ち越し本塁打が出た試合前、こんな声も囁かれていた。
「菊池のためにも、むしろエラーが出て良かったのではないか」――。
無失策の記録が日々、更新されていく。その重圧から解放されるという意味だが、言われてみれば、思い当たる節もある。昨年12月18日、ゴールデングラフ賞の表彰式でのことだった。壇上に上がった菊池は「NPB史上初の年間無失策の二塁手」になったことを質問され、こう答えている。
「苦しかったというふうに思います」「正直、くじけそうなときや、(打球が自分のところに)飛んできてほしくないなと思うことも何試合かありました」
無失策。エラーしないのが当たり前、ファインプレー…。名手ゆえの苦しみもあったようだ。その苦しみから解放されたことで、ハツラツとしたプレーにつながるのなら、570試合ぶりのエラーもプラスになったと解釈できる。今年はもっと華麗な守備が見られそうだ。
(スポーツライター・飯山満)