ネットワンシステムズとしては、丸投げの回数が増えれば、その分持ち出しが増えるが、たいていの場合、1社あたり数%の利益しか取らないので、経営にはさして影響はなかったという。仮に3%の利益率として100億円の発注を偽装した場合、97億円で最初の会社に丸投げしたのち、2社目、3社目が入って、そのあとに戻ってきたとすれば、およそ88億円。差し引き12億円に過ぎない。
「ただし、この金額を個人が差配できるとしたら、バカにならない。各取引の際に、あれこれ注文を付ければ着服もできるし、転用もできる。さらに架空の取引であることを消すための処理段階で、もっとカネを引き出すことも可能だ。実際、使途不明金に近いものがいくつも見られる」
捜査関係者は、そう解説した上、使途不明金の全貌解明に注力していることを匂わせた。
こうした捜査状況が示されるや、A社が俄然、注目の的となる。その理由について、別の捜査関係者が明かす。
「A社は、ダンスボーカルグループのリーダーと、その友人である六本木の飲食店オーナーの名前にちなんで命名されたとされる会社で、元代表取締役がリーダー当人だった。政治家と近いというよりも、むしろ芸能界と近い。元社員はそんなA社に、架空取引に関わった別の会社を通じて、システム開発の教育費という名目で多額のカネを振り込んでいた。きっかけは、元社員が六本木の飲食店に出入りするようになったことだとみられている。その店を起点に、界隈でずいぶん豪遊していたらしい。リーダーをはじめ、オーナーと交友のあったほかのミュージシャンや女優、モデル、さらにはお笑いの大御所らも同席したとの話も出ている。そのあたりにもカネが流れていたとしてもおかしくない」
実際、飲食店オーナーのツイッターを見てみると、捜査関係者が明かした面々が映った写真の投稿などが確認された。今回の捜査では、捜査線上に上った芸能人ら全てに事情聴取を行う予定だというが、果たして事件に関係していたのだろうか。そう問うと、同関係者は事件の重さに言及した。
「いやしくも官公庁の発注に絡んでのことです。中には、仮想でなく本当に発注があった案件で、循環取引のルートに乗せていたケースもあったとみられる。そうなれば、パソコンの転売による費用などもそうだが、国民の血税がおかしなことに使われていたことになる。揺るがせにはできない」
なるほど、軽々には済ませられないことではある。だが、俎上に載った芸能人らが単なる夜の遊興の場ですれ違ったに過ぎなかったとすれば、はた迷惑な話ではある。その場合、自分の交友関係を省みて、自らを戒める必要があるのかもしれない。