「青二才が」「世間知らずめ」北朝鮮で金与正氏バッシングが連続する背景

 金正恩総書記の妹、金与正・朝鮮労働党副部長の発言をめぐり、朝鮮半島の内外が騒がしくなっている。

 3月23日、情報番組「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)は、米バイデン政権に対する北朝鮮の動向を特集。その中で、金与正氏が米韓合同軍事演習を非難し、南北交流協力の断絶を示唆するとの談話を紹介した。ところが、米政府系のラジオ「フリー・アジア」(RFA)によれば、北朝鮮国内では与正氏のこの発言に対し、貿易系の幹部から「世間知らずな放言」と、激しい批判の声が上がっているというのだ。

 番組では、RFAが報じたものとして、両江道(リャンガンド)の貿易機関のある幹部消息筋が「物事の前後も把握できないまま、やたらと放言を吐き出す世間知らずな態度に言葉を失った」とのコメントも紹介。複数の貿易関係者が、北朝鮮国内で与正氏に対する批判の声を上げている可能性がある、と伝えた。
 
 北朝鮮情勢に詳しいジャーナリストが語る。
 
「3年前に、金正恩総書記と韓国の文在寅大統領とががっちり握手を交わす場面がテレビや新聞で報じられ、多くの北朝鮮国民が南北関係の雪解けムードを歓迎しました。というのも、ここ数年、北朝鮮は国連による経済制裁を受け続けた結果、経済が完全に疲弊。さらに新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、最悪の状況に陥っている。つまり、経済難を克服するためには、どうしても韓国の力が必要なんです。にもかかわらず、対韓事業を総括する立場にある与正氏の行動や発言で、韓国との関係が本当に絶たれてしまうのではないか、そう危惧する声がある。そうした声が表に出てくるのも、国民のフラストレーションがマックスになっている表れだと思われます」

 実は、北朝鮮内で金与正氏に対する批判が出るのは初めてのことではない。昨年6月、韓国の脱北者団体がビラを散布した事件があったが、その報復として南北共同連絡事務所を爆破した中心人物が彼女だと言われ、その際も、地方の幹部たちからは「なんて馬鹿なことをするんだ!この生意気な青二才が!」という批判が出たという報道もあった。

「もちろん、北朝鮮は監視社会。大っぴらにそんな批判をしたら最後、粛清されるは目に見えている。なので、幹部同士が秘密裏に情報交換する中で、それがRFAに漏れた、とみられています」(前出のジャーナリスト)

 加えて、彼女へ批判が集中するのは、昨年の降格人事にも原因があるのでは、というのは北朝鮮事情通だ。

「与正氏はこれまで党中央委のエリートコースを昇ってきましたが、昨年の人事で突然、政治局員候補から外れており、肩書の上では降格になった。一部では、女性の喫煙を規制しようとした与正氏が、ヘビースモーカーである兄の正恩氏と対立、いさかいになって……などという噂レベルの話もありますが、真相は分かっていません。ただ、一時期のようなカリスマ性が消えたことは事実。今後は『悪女キャラ』ではなく『悪女』としての本領を発揮してくる可能性もあるため、韓国も今まで以上に対応に苦慮することになるでしょう」

 未だ、強い男尊女卑の風潮に支配される北朝鮮。女性として権力を誇示するためには、やはり「強い悪女」になりきるしかない?

(灯倫太郎)

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