総額表示へ攻めの一手、ユニクロが「実質9%値下げ」で株価低迷の理由とは?

 2月16日には初の株価10万円を突破、アパレルのSPA企業(製造小売業)の時価総額では、「ZARA」を運営するインディテックスを抜いてナンバーワン企業になった、ユニクロやGUを展開するファーストリテイリング。コロナ禍で外販が伸びず大きな打撃を食らったアパレル業界にあって、ほぼ一人勝ち状態だったが、直近の株価で予期せぬ不調が続いている。

 3月4日に10万円を超えていた株価は10万円の大台を割り、その後ジリジリと下げ、その後、9万4000円台まで値を下げている(3月9日時点)。争点となっているのは3月4日に発表された「実質9%の値下げ」だ。

 4月1日から世の中の価格表示が変わる。これまでは、「9800円(税抜き)」、「9800円(本体価格)」、「9800円+税」といった価格表示がまかり通っていたのだが、それも3月31日で終わって、4月1日からは「10780円」、「10780円(税込)」、「10780円(税抜価格9800円)」といった表示に切り替わる。つまり、本体価格と消費税を別個表示する価格表示から、実際に支払う消費税込みの「総額表示」に切り替わるのだ。

「1989年4月1日に消費税が導入されて以後は、別個の表示と税込みの表示とが混在するようになりましたが、04年4月1日から基本的には税込みの総額表示にするよう法律で定められました。ですがこの間、消費税が5%から8%に、8%から10%にと税率が変わることで消費者が買い物で戸惑わないようにと、本体価格に消費税が上乗せされた金額がかかることがわかれば総額表示をしなくとも良いという特例措置が施されていました。その措置が3月一杯までで、だから4月1日からは総額表示で統一されるというわけです」(経済ジャーナリスト)

 確かに別個の表示はわかりにくかった。「少ない買い物だから」と小銭を握ってスーパーに行ってはみたものの、「そういえばあれもこれも」と思わず買い物が増えて、「消費税も含めれば果たして今ある所持金だけで足りるだろうか…」と不安を抱いた経験は、誰しも一度はあるだろう。それが4月1日以降は、単純な足し算だけで事足りる。

 だが経済は難しいことは言いつつも、結局は消費者マインドでもある。04年に総額表示が導入された際には、税込み表示の“見た目”が消費者の“割高感”につながり、全国のスーパーの売上が4%以上落ちた。その過去を踏まえれば、4月1日以降は変化に慣れるまでの買い控えでモノが売れなくなると想定されるのだが…。

 そこで攻めの一手を繰り出したということだろうか、むしろファーストリテイリングは3月12日から商品本体の価格を総額とする「実質値下げ」を発表。これを受けて株価が下落、マーケットはマイナスの判断を下しているのだ。例えば、ネットではこんな指摘も。

「9%値下げってハンパないな。9%値下げしても9%以上客増えないでしょ」

 確かに、現在の一人勝ちの状況を考えれば業績の伸びしろは少ないように思える。だとすれば、9%の値下げはそのまま利益の減少につながるという見方もできる。

「もちろん消費者にとっては嬉しい施策ですが、ともすればブランド価値の低下につながる諸刃の剣とも言えるうえ、粗利の減少は単純に企業財務には悪影響。投資家にとってそこがマイナスに映ったのでしょう」(前出・ジャーナリスト)

 だがあの柳井正社長のこと、大きな勝負に出たからには何らかの勝算あってのことだろう。とはいえ東証では100株単位での取引なので、株価10万円だと最低でも1000万円が必要。ほとんどの個人投資家では手の出しようがない大型株にもなると日本経済に与える影響も大きいようで…。

「225種の銘柄で構成される日経平均への寄与度は約10%にもなり、ここまでファーストリテイリングの存在感が大きくなると、ちょっとしたマイナス材料でも日経平均全体を押し下げることにつながりかねません」(経済誌記者)

 とはいえ、本当の勝負は4月1日以後。実質9%の大胆な値下げの是非を問うのはそれからでも遅くないだろう。

(猫間滋)

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