海外で仕事をする場合、ワーキングホリデーなどの一部の例外を除き、基本的にその国の就労ビザがなければ働くことはできない。しかも、取得しようにも厳しい条件を設けている国がほとんどだ。だが、世界には特例として就労ビザ不要で働ける地域がある。それがノルウェーにあるロングイェールビンだ。
実は、この町があるスヴァールバル諸島があるのは北極海。それも北極点から1000キロほどしか離れていない北緯78度13分に位置する“人類北限の町”だ。
この島では1920年に制定されたスヴァールバル条約により、ノルウェー以外のすべての加盟国が等しく経済活動を行うことが認められている。日本も同条約に加盟しているため、就労ビザ不要で働けるというわけだ。
ただし、島には炭鉱はあるもののロングイェールビンの人口はわずかに2000人を超す程度。ノルウェーの首都オスロから毎日定期便が飛んでおり、極地観光以外にこれといった産業もない。しかも、食料品や生活物資のほぼすべてを本土からの輸送に頼っており、世界有数の物価の高さを誇る北欧でも暮らしていくには特にお金がかかる。つまり、就労ビザが不要でも働き口は限られており、仕事にありつくのが非常に困難というわけだ。
一方、商売も可能だが出店可能なエリアは制限されており、スペースを確保するのが難しい。それに人口が少ないので採算面で問題を抱えているため、島民と観光客のどちらをターゲットにするにしても既存業種とは被らないニッチなものにする必要があるだろう。
なにより極地ゆえに1年の3分の2は平均気温が氷点下。さらに日が沈まない白夜、逆に日がまったく昇らない極夜がそれぞれ約4ヶ月も続く。おまけに島には人口を上回る約3000頭のホッキョクグマが生息し、居住区の外に出るためにはライフル銃を持った者が同行しなければならず、行動も制限される。
そんな過酷な環境ゆえに移住しても数年で去ってしまう人が多いとか。そもそも人間が生活するのに適した土地とは言えないため、異国からやってきて実際に住むとなると、相当な覚悟が要りそうだ。
(高島昌俊)