お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が2020年の記憶に残る裁判を振り返る本企画。自転車のネコババが発覚して起訴された男は、かつてアジアを熱狂させた有名メダリストだったという。注目の判決の行方は…。
2021年はオリンピックイヤーです。本来は2020年開催が延期になった異例のオリンピックとなります。そんな中、昨年暮れの東京地裁ではオリンピックの元日本代表で、アジア大会のメダリストが自転車を持ち去ったという占有離脱物横領の裁判が行われました。
起訴されたのは、2020年4月に東京都内のスーパーの駐輪場に停めてあった自転車を被告人が持ち去ったという内容。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を卒業後にアマチュアスポーツの活動を経てジムを経営。しかし数年前に廃業し、職を転々としていたという。
犯行当日は、自転車でスーパーに買い物に行って、買い物を済ませると自分の自転車がなくなっていたいう。そこで被告人は周りを見渡したところ、カギのかかっていない本件被害品の自転車を見つけ、そのまま乗って持ち去ったらしい。翌日の夕方、被告人がその自転車を無灯火で、しかも車道を逆走していた事で警察官が職務質問を実施して、犯行が発覚したとのこと。
そして被告人質問。まずは弁護人から。
弁護人「何故やったんですか?」
被告人「買ったばかりの自転車が買い物から戻ったらなくなってて。それで近くにカギがかかってない自転車があったので」
弁護人「過去には自転車盗んで罰金刑も受けてますよね?反省してなかったの?」
被告人「今年に入ってから自転車3台も盗まれて」
弁護人「再犯しないためにはどうしますか?」
被告人「自転車にはカギを掛けます。というか、もう乗りません。趣味のロードワークですね、走ります」
さすがは元アスリート。再犯防止策として「走る」と宣言です。
弁護人「現在執行猶予中なんですけど、前刑は何をしたんですか?」
被告人「警察官に張り倒されまして、やられたのでやり返したと」
弁護人「あなたは××オリンピックと××オリンピックにもアジア大会にも出場して、アジア大会ではメダル獲得してますよね。拳が凶器になるってわかってますよね?」
被告人「はいわかっています。自分から手を出すことはありません」
と、警察への暴力沙汰で執行猶予中の身だったようです。って事は実刑がほぼ確定な訳でして…。
この初公判の2週間後に判決が言い渡されて、結果は懲役4月未決勾留日数50日算入という判決でした。ざっくり言うと、約2カ月半の実刑ですね。一時は日本中に注目されて多くの人に元気と感動を与えてきたんだろうけど、2020年に自転車ドロボーに成り下がっていたとはね。オリンピック2大会で日本代表に選ばれても一生安泰ってわけじゃないんですね。スポーツの世界は厳しいもんだ。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。