「車ハッキング窃盗団」元締めが最先端手口を不敵暴露(1)新手の窃盗手口「CANインベーダー」

 玄関先の駐車スペースに止めたはずの愛車が、一夜にして忽然と消える。それも高級車だったとしたら、驚きと憤激はいかばかりか。今、大流行している盗犯手口は、IT社会の最先端技術を活用した狡猾なもの。窃盗グループ自らが、その詳細をバラす。

 誰もが寝静まった深夜。東南アジア系外国人の男2人組が、都心から1時間半ほど離れた住宅街を徘徊していた。ターゲットは「レクサスRX200t」。あらかじめ洋風の二階建て一軒家の軒先に止めてある高級車はチェック済みだ。目的地に到着するや、アイコンタクトを交わす。一方は周辺の見張り役、そしてもう一方が車の助手席下にしゃがみ込むや、ズボンのポケットからマイナスドライバーを取り出した。

 クイッ、クイッ、クイッと慣れた手つきでフロントバンパーのボルトとネジを外す。必要以上に音を立てることなく、留め具を失ったバンパーの中を覗けば、車の配線がムキ出しに。おもむろに取り出したモバイルバッテリー型の「発信機」をコネクターに繫げてボタンを押すなり、ガチャッとドアロックが解除された。すぐさま運転席に乗り込んで、エンジンを始動。2人組は車ごと、まんまと走り去っていった。「作業」開始からわずか5分弱の出来事だった─。

「これは『CANインベーダー』という新手の窃盗手口です」

 こう眉をしかめるのは、警視庁関係者だ。

「今年1月から8月の間に認知された自動車窃盗数は3286件。対して検挙数はその半分強にあたる1798件のみでした。日中よりも夜間に被害は集中しており、狙われるのはランドクルーザー、レクサス、プリウスなどトヨタ製の高級車が中心。最近の車はコンピュータプログラムで制御されているものが主流です。これはその仕組みを巧みに利用した犯罪で、足がつきにくいんです」

 冒頭の手口で実際に盗難被害に遭った、埼玉県在住の30代男性がタメ息をつく。

「気が付いたのは朝の通勤前で、家を出るなり呆然と立ち尽くしてしまいました。雨除けのカバーだけを残して、車がまるまる消えていたんです……」

 これまでは車と鍵が触れることなくドアの開閉からエンジンの始動停止ができるスマートキーの電波を傍受して増幅・中継する「リレーアタック」による窃盗が主流。ところが電波を遮断するべく、キーを金属缶などの中に保管しておくなどの対策が取られ、一気に下火になった。そこで新たに登場したのが「CANインベーダー」なるものだ。

 窃盗団を取り仕切る「元締め」は主にパキスタン人。その下でフィリピン人やベトナム人、中国人などの「実行犯」が稼働する。取材を進めていくうち、さるパキスタン人の元締めにアクセスすることに成功。いわく、

「表向きの仕事は、中古車販売業者だ。車のシステムを司る心臓部分をハッキングしてしまうわけ。そこで標的になるのが『CAN信号』という心臓につながる血管部分。車の至るところに配線されていて、助手席側のフロントバンパーをこじ開けて差し込むのがポピュラーかな。そこから発信機を繫げて、心臓となるシステムにアタックする」

 まさに「インベーダー」そのものなのだ。

*「週刊アサヒ芸能」10月28日号より。(2)につづく

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