未曽有の経済危機を巻き起こし、全世界をドン底に突き落とした新型コロナウイルスは、「史上最悪の風評被害」も引き起こしていた。何の落ち度もない人々が、理不尽な誹謗中傷にまみれ、苦悩した涙の告白を以下に……。
《キミのじまんのかぞくは、コロナのじまんのしゃいんです》
社名が新型コロナウイルスを連想させることで、社員とその家族が心を痛め不安を感じている……こんな声を受け、新潟県三条市の総合住宅設備メーカー「株式会社コロナ」の社長が地元紙にこんなメッセージを掲載したのは、今年6月のことだった。
「『コロナではたらくかぞくをもつ、キミへ』と題されたこのメッセージは社員の子供に対し『両親に誇りを持ってほしい』との思いを込めたものですが、裏を返せば、誹謗中傷がそれほどひどかったということ。ただ、同社のように意思表示した企業はごく一部で、大半は風評被害にさらされながら声も上げられないのが実情でしょう」(全国紙社会部記者)
法務局の登記情報提供サービスによれば、社名に「コロナ」と名の付く会社は全国で約300社。彼らへの風評被害が止まらない。実際に関東地方で「コロナ美容室」を経営する女性オーナーに話を聞くと、
「春頃に比べたらいたずら電話は減りましたが、いまだに真顔で『まだ、お店の名前変えてないの!?』と言うお客さんがいるのも事実。この店は私の人生そのものですからね。悔しいし、寂しいです」
と唇をかみしめる。
「コロナ」という名称ゆえ、思わぬトバッチリや理不尽な扱いを受けることになった国内外の「コロナ」を集めた「コロナマニア」(パブリブ)の著者・岩田宇伯氏が言う。
「たまたま愛知県内をドライブ中、街道沿いで『喫茶コロナ』という店を見つけ、ああ、コロナなんて店があるんだな、と。店先をのぞいたら〈店主が病気のため休業中〉という貼り紙があり、まさかコロナの影響じゃないだろうなぁ……と。他にもあるなら調べてみようと思ったんです」
コロナは、ラテン語で「王冠」を指し、一般的にも「太陽コロナ」で知られる。
「つまりコロナは本来、希望とエネルギーに満ちた太陽を連想させる、ポジティブなネーミングなわけです。そのため60〜70年代にかけて、トヨタが車名に付けて販売して大ヒット。ビッグワードとして、日本でも大流行した経緯があります。ところが新型コロナウイルスのせいで、もともとあったイメージが消え、すっかりネガティブな単語になってしまった。オーストラリアでは『コロナ』という名前の少年が学校でいじめにあい、イギリスでは『コロナビール』のブランドイメージが低下したというニュースも伝えられました。調べれば調べるほど、本当に理不尽極まる話だと」
憤慨した岩田氏はSNSを駆使し、国内外の「コロナ情報」を収集。地元愛知県にあるコロナ名の店舗や施設に足を運び、さらには風評被害にあった店などに電話で様子を聞いた。
岩田氏が続ける。
「例えば長野にある『味蔵コロナ食堂』には、ネットでの心ない中傷や無言電話もあった。『大阪コロナホテルにもSNSで『縁起が悪い』『怖い』といったツイートがあり、同ホテルが『コロナウイルスが憎い……』とツイートしたところ、『コロナホテルさんは悪くない』『負けるな!』『頑張って下さい! 応援してます』といった温かい応援メッセージがリプライされたということです」
多くの飲食店や宿泊施設が励ましの声で立ち直ろうとしている。