戸郷8勝でも新人王に暗雲!? 原巨人“独走”でも拭えぬ「98年の悲劇」とは?

 巨人・戸郷翔征が7回無失点の好投で1カ月ぶりとなる8勝目を挙げたのは9月27日のこと。球団史上では高卒2年以内のピッチャーが8勝以上を挙げるのは、1987年の桑田真澄以来。「新人王」のタイトルも大きく引き寄せたようだが、「かえって、心配」と正反対の声も聞かれた。

「新人王を争ううえでの戸郷のライバルは、広島の森下暢仁です。森下の防御率は2点台で、6勝3敗(同時点)。勝ち星では戸郷のほうが上なので、一見、有利に見えますが、そうとは言い切れません。新人王は数字ではなく記者投票によって決まるからです」(球界関係者)

 セ・リーグの新人王レースは戸郷か、森下か……。事実上の2択になった中盤戦以降、「チームの順位で決めることになりそう」と予想する声も聞かれた。その通りだとすれば、優勝カウントダウンの始まった巨人所属の戸郷が圧倒的に有利だが、“数字以外の評価”も聞こえてきた。

「広島は下位に低迷していますが、森下は実質エースとして先発ローテーションを支えています。大瀬良が故障離脱した今、佐々岡監督がもっとも頼りにしているのは森下です」(スポーツ紙記者)

 くどいようだが、新人王は野球取材記者の投票によって決められる。数字以外の評価、つまり「感情」で票が動くことも起こりうる。思い出されるのが、98年の新人王レースだ。

 同年は中日・川上憲伸と巨人・高橋由伸によるハイレベルな争いが繰り広げられた。新人王は川上が選ばれ、同タイトルを逃した高橋、そして、この2人に勝るとも劣らない好成績を残した阪神・坪井智哉、広島・小林幹英の3人が特別表彰されている。一見、4人の新人の活躍が高く評価されたわけが、そうとも言い切れないようだ。記者投票だが、川上に投じられた111票に対し、高橋は65。投票権を持っている記者のなかから、「こんなに開くとは思わなかった」との声が出たように、この結果を「98年の悲劇」と思い起こす記者も少なくない。

 当時を知る年配の記者がこう言う。

「川上、高橋は記者投票でも肉薄すると予想されていました。2人の直接対決は22打数1安打。『それが決定打になった』との声も当時は出ましたが、そうとも言い切れません。『他の記者が高橋に入れるだろうから、自分は……』と、ヘンに気を回した投票者がいたため予想外の投票結果になったようです」

 感情で票が動くというやつだ。当時と同じ感情票が、今季の戸郷と森下の新人王レースで同じ事態が繰り返されるのではないかというわけだ。もちろん、川上の好投を正当に評価した記者も多数いたはずだが……。

 広島で孤軍奮闘する森下に“感情の票”が集まる可能性は捨てきれない。ペナントレースは終焉を迎えつつあるが、新人王争いはハイレベルな戦いが続きそうなだけに、投票する記者は頭が痛いところだ。

(スポーツライター・飯山満)

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