正面からは、最後の力を振り絞ってデンコウマッハやバンチフラワーがやってくる。危険を察した実況アナウンサーは大声で「おっと、前からタイタニアムがやってくる! 正面衝突は避けたいところだ。危ないですから(馬たちは)内に入ってください!」と絶叫。
幸い騎手たちの好判断もあって、馬場の中ほどを走ってきたタイタニアムとの衝突を避けることができた。
お騒がせホースは次のレースでも落馬。その際、左上腕骨を骨折し、哀れ予後不良の身となり、殺処分されてしまった。
騎手がガッツポーズをするのは勝利が決まった瞬間か、その直後だ。しかし驚くなかれ、ゴール20メートル手前からガッツポーズ、そのままゴールした騎手がいる。
90年11月11日のエリザベス女王杯で、8番人気キョウエイタップに騎乗した横山典弘(51)だ。実況放送でも、それは一目瞭然。杉本清氏が「ゴールに入る前からガッツポーズ!」と大声を発しているのだから。
直線で内を突き抜けたところで勝利を確信したのだろうが、そこには別のワケもあったようだ。ベテラン競馬記者はこう回想する。
「G1初勝利が目の前になり、舞い上がったせいではないか。ノリちゃんはそれまでメジロライアン(ダービー2着)などの有力馬に乗りながら、G1勝利にありつけなかったから。そういう見方があっても、少しもおかしくないだろう」
ちなみに武豊(50)はG1勝利時、すぐにガッツポーズをせず、ゴールを少し過ぎたくらいから。テレビカメラがゴールした瞬間だけでなく、再度、勝利騎手を映すからだ。自分を魅せることに長けた騎手である。
そんな武には一度だけ、「フライング」した経験がある。99年12月26日の有馬記念、スペシャルウィークに騎乗した際のことだ。
的場均騎乗のグラスワンダーをマークしてレースを進めた武は、直線で抜け出したグラスワンダーを外から強襲する。2頭が並ぶようにしてゴールしたため、長い写真判定となった。
場内では、「スペシャルが勝ったな」「いや、わからないぞ」という声がいたるところから聞こえてきた。しかし勝利を疑わなかった武は、迷うことなくウイニングランを開始。それを見た的場は引き揚げてきて、2着馬の位置に馬を収めた。
しばらくすると、場内から「オーッ」というざわめきが起こる。電光掲示板に「1着グラスワンダー、2着スペシャルウィーク」と表示されたのだ。パトロールフィルムを見ると、確かにゴールした瞬間、グラスワンダーのハナが出ていた。その差、わずか4センチ。
バツが悪そうに引き揚げてきた武は「馬は本当によく頑張ってくれました。残念ながら競馬に勝って、勝負に負けた」と無念をにじませ、記者の輪から静かに去って行った。
天才騎手の弟もまた、兄とはまるで違う意味で「しでかした」ことがある。
武幸四郎(40)=現調教師=が騎手時代の03年9月6日。新潟競馬の午後の騎乗とその翌日の騎乗全てを「体調不良」でキャンセルしたことで、コトは動く。通常なら自宅に戻って安静にするものだが、なんと向かったのは、東京にいる人気女子アナ・高島彩(40)のもとだった。