人馬一体とは言え、動物を正確にコントロールするのは難しい。そして騎手たちもまた、みずからの行動を制御できないことがままある。偶然、勘違い、想定外、恥ずかしいミス‥‥ターフではレースよりもおもしろい珍事が、常に勃発していたのだった。平成の「“珍”&“怪”特別レース」をプレイバック!
ダイワメジャーといえば、皐月賞、天皇賞(秋)、マイルチャンピオンシップ(2回)、安田記念を制した名馬。現在は種牡馬として活躍中で、すでに6頭のG1馬を輩出している。
現役時は骨格のしっかりとしたたくましい馬体の持ち主として知られたが、それとは裏腹に精神面は不安定で、扱いが大変だった。上原博之調教師によれば、
「見た目はごついのに、すごくナーバスな馬だったんです。おなかを下したり、喘鳴症になったりと、苦労が絶えませんでした」
コトが起こったのは03年12月28日のデビュー戦。パドック周回時、緊張のあまりおなかが痛くなり、その場に寝転んでしまったのだ。厩務員がどうにか立ち上がらせようにも、なかなか言うことを聞かない。見ていた競馬ファンは大笑い、馬主はビックリだ。
それ以降、寝転ばせないように、パドックでは厩務員か助手がまたがり、さらに2人引きという態勢で周回するようになる。トレセンで寝転びそうになった時は叱りつけ、徹底的に歩かせるようしつけた。
「馬房内には音楽(有線放送)を流して、気持ちを和ませるようにしたといいます」(競馬ライター)
厩舎スタッフのこんなたゆまぬ努力があったから、5つのG1を制する名馬になりえたのだ。
ちなみに先のデビュー戦は、それでも2着に入る健闘ぶりを見せつけている。
堂々と寝転ぶダイワメジャーより豪放だったのは、99年10月10日の東京2Rに1番人気で出走した、アイルランド生まれの外国産馬ゼンノエルシドだ。パドックで、出走馬中唯一の牝馬だったマルターズスパーブの姿を見て興奮。馬っ気全開の同馬は結局、レース中もずっとイチモツを出したまま走り、直線で他馬を差し切ってみせたのである。
不安げだった藤沢調教師も、この勝利には大喜び。
「いいモノを持っている」
粋なコメントで周囲の笑いを誘ったのだった。
以降、同馬の出走時にはパドックに「男を魅せろ!ゼンノエルシド」の横断幕が見られるように‥‥。
その応援に応えるかのように、2年後の京成杯オータムハンデ(GⅢ)では、日本レコードで勝利。その2走後のマイルチャンピオンシップにも勝ち、G1ウイナーとなった。
引退後は種牡馬入りし、自慢のイチモツを役立たせることに励んでいる。
サラブレッドは通常、スタートしてからゴールするまで、全ての馬が同方向に走るものだが、ヘソ曲がりもいなくはない。その最たる例が、05年9月4日の新潟・障害未勝利に出走し、逆走してみせた1番人気のタイタニアムだ。
向こう正面の第一障害で転倒した同馬は大江原隆(61)=現調教助手=を振り落とし、カラ馬のまま馬群のあとに付いていった。ところが何を思ったのか、2周目の向こう正面でUターン。逆走して直線コースに向かってきたのだ。