本来ならば東京オリンピックは今年7月24日の金曜日に開幕するはずだった(変更後は2021年7月23日開幕※7月22日現在)。そして国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチはこの週にタイミングを合わせて20日に、日本のスポーツ界で子供が受けた暴力の実態についての調査結果をまとめた報告書を公表した。
《『数えきれないほど叩かれて』:日本のスポーツにおける子どもの虐待》と題された報告書は冒頭から、「数えきれないほど叩かれました。……」という、プロ野球選手だという「ダイキ・A」さん(23歳、仮名)が中学校の野球部時代に受けた暴力についての証言から始まる。
「……集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。血が出てたんですけど、監督が殴るのは止まらなかったですね。ちょっと鼻血が、と言ったんですけど止まらなかったです」
報告書は全57ページ。その中では、16競技以上の現役・引退選手56人のインタビューと、757人を対象としたインターネット調査の結果がまとめられた上で、国会、文部科学省、スポーツ庁、各種スポーツ団体へ改善への提言がなされている。だが紙幅の半分以上はダイキ・Aさんが語ったような「指導」、「シゴキ」、「体罰」のオンパレードで、読むに堪えない内容となっている。
例えば、「現状」の項目はさらに以下の項目に分けられて報告されている。
「殴る、はたく、蹴る、物で叩く等の行為」、「過剰な食事の強要」、「罰としての短髪、坊主頭」、「上級生からの暴力・暴言」……。
スポーツにまつわる話というよりは、もはや犯罪報告書のようだ。「性虐待」といった項目すらある。
かつての有名選手も証言を行っている。元女子バレー日本代表の益子直美さんだ。
「指導者から褒められたことは覚えていないです。とにかく毎日ぶたれないように過ごすことを考えていた。バレーボールが楽しいって思ったことはないです。……やっている当時も、引退してからしばらくもバレーボールは嫌いだと思っていました」
胸の内を聞けば、よくぞ辞めずに頑張ってくれたものだと思える。
報告書でも触れているが、記憶に新しいところでは、2012年に大阪のバスケットボール部の男子高校生が顧問からの暴力を苦にして自殺した事件などが思い出される。当時は橋下徹氏が大阪市長だったことから、劇場型政治の手法と相まって全国的な話題となった。また、翌13年に女子柔道日本代表監督が選手から暴力の実態を告発されて辞任に追い込まれたケースも、この大阪の件と併せ、日本のスポーツ界での改革のきっかけとなった事件として紹介されている。
それでも後に相撲の暴力問題や日大アメフト部悪質タックル問題など、日本のスポーツ界の悪しき体質はたびたび噴出する。オリンピックを1年後に控え、なんとも「不都合な真実」が日の目を見てしまったものだ。
(猫間滋)