盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
広島の堂林はついに覚醒したと言ってもいい。開幕から1カ月、セ・リーグの首位打者争いを引っ張っている。プロ11年目で巡ってきたチャンス。目の色を変えてプレーしている姿には応援したくなる。
もともとレギュラーで活躍できる力は持っていた。昨季はファームの試合を見ていて「なんでこれだけ打てるのに1軍に上がれないのか」と不思議やった。1軍ではわずか28試合の出場で打率2割6厘、ホームランは2年連続で0本やった。緒方前監督からはあまり評価してもらえてなかったように見えた。たまにチャンスをもらっても、結果を残さなアカンと空回りしていた感じやった。
今年は佐々岡監督に代わり、堂林にとっては転機が訪れた。この世界、監督交代で浮上してくる選手もいれば、不遇をかこつ選手もいる。監督それぞれ野球観が違うし、当然のこと。だからこそ、1年ぐらい活躍しただけではレギュラーとは言えない。堂林も野村監督時代は他の選手よりチャンスをもらっていた。3年目の12年には全試合出場で14本塁打をマークしたけど、レギュラーをつかみきれなかった。3年続けて結果を残して一人前の世界。そうなれば、監督が代わろうが関係ないんやから。
堂林は今年がラストチャンスとの思いが強かったはず。年下の鈴木誠也に弟子入りする形で自主トレを行って、キャンプ、オープン戦とアピールを続け、6年ぶりに開幕スタメンをつかんだ。これはなかなか大変なことや。ファームにいる期間が長くなると「2軍の水」に慣れてしまう選手がとても多い。そこからはい上がるには、相当な覚悟が必要になる。
二度と2軍には戻りたくないから、1打席1打席必死にやっている。2ストライクに追い込まれても粘りがあるし、逆方向へ打ち返すしぶとさも身につけた。鈴木誠也という最高の手本が身近にいるのも大きい。あとは、とにかくケガだけしないこと。せっかくのチャンスを逃す選手をこれまで何人も見てきたが、今のままガムシャラにプレーを続ければ、結果はあとからついてくると思う。
そのライバルのケガで大きなチャンスをつかんだのが、阪神の大山。こちらもついに覚醒しつつある。今年はマルテに三塁のレギュラーを奪われ、開幕から控えに回っていた。矢野監督1年目の昨季は開幕から4番で固定されるほど期待をかけられていたけど、後半戦は見切りをつけられた感じやった。ところがマルテが左ふくらはぎを痛めて登録抹消となり、再び4番を任されるようになった。もともと今年はキャンプからいい形で打っていた。去年の悔しさを晴らしたい思いも強くあったはずや。
最も大きな変化は、下半身を使ってどっしりとしたスイングができるようになったこと。去年までは結果を欲しがって、軸足の右足をズラしてチョコンと右方向に合わせるようなスイングが目についた。それが今年はしっかり振り切って、引っ張った強い打球が打てている。初球にヤマが外れたような感じのスイングをしても、打席の中で修正ができている。あとはマークが厳しくなって、ボール攻めにどこまで我慢できるか。ボール球を追いかけだすと、打撃は崩れていく。
堂林や大山らの復活ドラマはおもしろい。人生も野球も、失敗を次に生かせるかどうかが勝負やから。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。