未曽有の危機でも「自死者2割減」、コロナに殺されたくない人間の心理とは?

 景気が冷え込むと自死が増えると言われる。統計を開始してから過去に自死が最も増加したのは98年の3万2863人で、それまでは2万人台で推移していたものが3万人を大きく上回り、前年比で35%も増えた。98年といえば、その前年に山一證券や北海道拓殖銀行といった企業や金融機関が経営破綻し、バブル崩壊後の余波を最もかぶった年だと言われる。以後、2000年代は3万人台で推移し、03年には統計上最多の3万4427人を記録する。

 人類史上未曾有の事態であるコロナ禍では経済が停滞、当然のことながら自死者が爆発的に増加するとの予測が立てられたが、実際にフタを開けてみたら事態は全く逆で自死者は減ったという。

「10日に公表された警察庁の統計によると今年1〜6月の自死者は9336人(速報値)で、前年同期比で10.8%も下回っていることが分かりました。通常、自死者は3月、5月が最も多くて12月が少ない傾向にありますが、緊急事態宣言の最中だった4、5月は前年より約18%も少なかったことが大きい」(社会部記者)

 特に4月の数字は正確には19.7%減で、過去の4月の数字を見れば、多い時でせいぜいが10%の減少が見られたくらいなので、いかに大きな減少だったかがわかる。確かに、4月末に都内の飲食店の店主がコロナ禍の客足減少を苦にしたと見られる自死をしたことが大きく報じられたことはあったが、その後あまりそんな話は聞いたことはない。実際、自死の件数が減っていたのだから。

「一方、確実に経済状況は悪化していて、1〜3月のGDPは2.2%減っています。これは明らかに特異な現象で、専門家の間ではまずはコロナという目の前の敵から身を守ろうという心理が働いたのではないかとの見方がされています」(前出・社会部記者)

 ビルの屋上から身を投げようとしている人がいて、仮に暴漢に襲われたとしたら、まずは殺されたくはないと身を守るだろう。そんな心理が働いたのではないかという見方だ。

 日本では大型倒産が回避されているという現実もあるだろう。現在もコロナが猛威をふるっているアメリカでは、5月に高級百貨店の「ニーマン・ルーカス」、老舗の「JCペニー」、レンタカーの「ハーツ・グローバル・ホールディングス」が倒産したかと思えば、つい最近もピザハットやウェンディーズを運営する「NPCインターナショナル」、日本でもワイシャツなどでおなじみのアパレル「ブルックスブラザーズ」の破綻が伝えられたばかりだ。

「企業調査会社の調べでも、6月の倒産件数は780件で前年も700件台なので特に急増しているというわけではありません。インバウンド需要に頼っていた外食、小売業界などで悪影響は顕著でしたが、全体として休業補償や政府の対策などで何とか持ちこたえたというのが現状でしょう」(経済ジャーナリスト)

 いわば水際で何とか押しとどめているというのが実態なのだろうが、まだ序の口と言えそうだ。言うまでもなく、東京を中心にいよいよ第2波が本格化しようとしているのだから。

 京都大学のある報告によれば、向こう19年間で自死者が14〜27万人も増えるというシミュレーションがある。3万人台を推移していた頃の自死による経済的損失は1兆円超との試算もある。

 ちなみに、2019年の自死者数は10年連続減少の1万9959人。このままいけば、2020年は過去最少を更新しそうだ。嵐の前の静けさでなければ良いのだが。

(猫間滋)

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