世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「不振の近本よ『おいあくま』やで」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 阪神が開幕5カード目の広島戦でようやく初の勝ち越しを決めた。4カード連続負け越しは球団ワーストタイで、スタートダッシュに完全に失敗した。原因は一つではない。開幕3戦目で4番を外されたボーアが目立ったけど、それと同じくらい痛かったのが近本の不振。7月4日の広島戦(マツダ)で3安打するまでは打率1割台に低迷していた。やっぱり阪神は、近本が出塁してかき回さないと、打線に活気が出てこない。

 彼に限っては2年目のジンクスも関係ないと思っていたけど、ちょっと悪循環に陥った感じやった。開幕前から矢野監督に2番で期待されていたから、本人も右方向へ引っ張る打撃を磨いてきたはず。ランナー一塁で、送りバントをしなくても一、二塁間に転がせばゲッツーはないし、走者に残れば盗塁もできる。打球が右前に抜ければ、一、三塁という理想的なケースを作れる。その引っ張りを意識したスイングが悪いとは思わないけど、開幕2試合で9打数無安打と結果がまるで出なかった。

 3戦目からは1番に戻って、今度は出塁しなアカンとなった。そのためボールをよく見て引きつけようとするから、少しタイミングが遅れてしまっていた。捉えたと思ったボールが差し込まれてポップフライになったり、左方向への弱い打球になっていた。そうなると、強い打球を打とうと思って今度は体が前に突っ込みだす。広島戦までは、ちょっとしたパニック状態やったと思う。7月2日の中日戦(ナゴヤD)の最終打席も象徴的やった。2点を追う9回無死一、二塁で送りバントを2度失敗して、最後はバスターで遊飛。バットを投げつけるほど悔しがっていたが、調子が悪いと不思議とバントすら難しくなってしまう。

 近本にとっては、その翌日の広島戦が雨で流れたことが大きかった。報道によると練習中に福留から打撃指導を受けたという。すると4日の試合でいきなり3本のヒット。しっかり軸足に体重を残して「間」ができるようになっていた。調子が悪い時は聞く耳を持っている。ベテランの効果的なアドバイスがうまく生きたんやろな。

 近本は真面目な子で、チームの成績が悪かったから余計に悩んだと思う。でも、どんな打者にもヒットが出ない時はある。ましてや開幕当初は投手もまだ元気やし、コースに決められれば簡単には打てない。僕もオールスターまで打率1割台に苦しんだ年(1975年)がある。前の年に3割2分7厘打って油断していたわけやないけど、開幕からまったく打てんかった。オフにゴルフをたくさんやらされたのが原因の一つかもしれん。バットのヘッドが下がり、下からすくい上げるような感じになっていた。幸い、チームの成績はよかったから、救われる部分はあった。開き直って「早く投手がバテる8月、9月になれ」と思っていたもんや。

 僕は阪急の先輩の中田昌宏さんに教わった「おいあくま」という言葉を大事にしていた。「怒るな、威張るな、焦るな、腐るな、迷うな」。焦っても、迷っても、いい結果は転がり込んでこない。近本も焦らず、迷わず、腰を据えて野球をやってほしい。

 今年は球宴休みもない過密日程の特別なシーズン。いつにも増して「打高投低」になる可能性が高い。近本も必ず巻き返してくると思う。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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