緊急事態宣言解除後も、全国的に飲食店の苦境が伝えられている。大きな要因のひとつに、在宅ワークの増加による、人々の生活スタイルの変化があげられる。外出する機会が減れば、勤務先や利用駅の近くで外食する回数が減るのは当然かもしれない。そのような中で注目されているのが、モビリティ型飲食店だ。いわゆるキッチンカーなどによる飲食の移動販売。日本ではもともと、「屋台」として馴染みのあるスタイルである。「食と文化」をテーマに研究を続ける大学助教授に話を聞いた。
「日本では18世紀、江戸時代の立ち食い蕎麦屋がモビリティ型の起源と言われています。店舗に車輪はついておらず、肩に担いで移動するスタイルでした。当時、屋台は江戸の町に多数いた独身者のニーズから生まれたものと思われます。明治以降で屋台が盛んになったのは、戦後です。戦災で店舗を失った人々が多く、屋台という形で商売を始めるしかなかったのです。その後、時代とともに従来の屋台は減っていき、それに変わるものとしてキッチンカーが主流となっていきます。クレープや、メロンパン、最近だとタピオカなど、流行をタイムリーに反映しやすいのも特徴です」
コロナによって飲食業界が低迷するなかで、モビリティ型飲食店はどのような役割を果たしていくのだろうか。
「緊急事態宣言下で『お客さんが来られないなら、売り手から届けよう』とばかりに飲食デリバリーが浸透したのと同じように、自粛解除後も、店舗に来なければ、お客さんがいるところまで行って売るのは自然な流れです。5月には神戸市が一般社団法人である日本移動販売協会(mobimaru)と事業連携を行い、市内の住宅団地へのキッチンカー提供実験を行いました。神戸市がキッチンカーの無料貸与、市有地の無料提供、費用の一部助成などを行う支援策です。アンケートの結果を見ると、かなり好評だったようです。民間でも、フードトラック(キッチンカー)と空きスペースのマッチングサービスTLUNCH(トランチ)が注目を集めています。実は戦後に急激に増えた屋台が、旧東京五輪(1964年)に向けた規制によって激減したという歴史があります。これから令和五輪を控えて、行政や民間企業のサポートを利用しながらのモビリティ型飲食店が、業界でよりいっそう存在感を増していくと予想されます」(前出・助教授)
常に時代を反映する屋台が、今後は「モビリティ型飲食店」の名で、飲食業界再興の一端を担っていくかもしれない。
(オフィスキング)