5月4日、全国を対象とする緊急事態宣言の延長が正式に決定された。いまだ先の見えぬ「コロナ禍」の中で顕在化している問題のひとつが、感染者や医療従事者等に対する差別だ。過去の感染歴を理由に来店を拒否される、医療従事者というだけで誹謗中傷にさらされる……。事例の多さから政府も広報のTVCMを放映するなどして対策を図っているが、根本的な解決にいたっていないのが現状だ。
「安倍総理が4月28日に『許すことのできない差別があるのは事実であり、恥ずべきことだ』と発言していることからもわかる通り、政府が“コロナ差別”に対して危機感を持っているのは明らか。5月4日の会見でも『ウイルスよりももっと大きな悪影響を私たちの社会に与えかねない』と引き続き警鐘を鳴らしています。ある意味、従順とも言える日本の国民性が、緊急事態宣言発令後の感染拡大防止において功を奏していたとも言えますが、別の側面として、他者の排斥や差別の過激化が進行しています」(政府担当記者)
5月に入ってから、新型コロナウイルス感染の兆候を知りながら山梨に帰省し、その後、高速バスで帰京した20代の女性が激しい“ネットバッシング”にさらされた。里帰り中に友人らとバーベキューを楽しんだことや、周囲に感染させるリスクを承知で帰京した理由について、「飼い犬が心配だったから」と釈明したことも世間の反感を買い、名前や顔写真、住所までさらされた。
また、SNSに投稿された彼女の「勤務先」が、まったくの「事実無根」であるとして、「当社関係各位に新型コロナウイルス感染者は確認されておりません」と声明を出したこともニュースとなった。感染した女性の問題行動は批判されるべきだが、こうした度を超したバッシングについて、「魔女狩り」「集団私刑」と指摘する専門家の声もあった。
「政府はまさにこのような事例が顕在化することを恐れていたはず。ネット上を中心に、関係者に対する誹謗中傷はすさまじいものがあります。今後、差別を恐れて黙秘をする感染者が増え『感染経路不明』とするケースが増加したり、症状が出ても医療機関に相談することすら躊躇してしまい、最悪、孤独死に至るケースが増えるのではないでしょうか。これ以上、人が人を苦境に追いやる“二次被害”が起こらないことを祈るばかりです」(前出・政府担当記者)
ウイルスに感染する恐怖はもちろんだが、デマや差別の横行による心理的なストレスも看過できないテーマだ。並行して、経済的困窮や絶望感から自殺に走るケースも増えている。4月30日には都内のとんかつ店の店主が「焼身自死」を遂げたと見られる火災が発生した。
国民誰もが非日常的な生活を強いられていることを改めて考え、支え合いの輪が広がることに期待したい。
(穂波章)
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