2017年の米MLBワールドシリーズにて、ヒューストン・アストロズがサイン盗みを行っていた件が過熱している。1月13日には当時のGMと監督の職務停止処分がリーグより発表され、球団は両者を解任。2月13日にはチームオーナーと新監督が出席しての謝罪会見も行われた。だが、選手への処分はなく「Cheat」(ズル、インチキ)で獲得した全米王者の座にも変更がないことで、ファンと選手の両方から批判の声が続出している。
「2月17日には、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手が記者との質疑応答にて、アストロズが未だにタイトルを保持していることに疑問を提示。MLBが下したペナルティーは不十分だと批判しました。翌日にはヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手がダルビッシュの言葉を引き合いに出し、これがオリンピックなら金メダルを保持できないと主張。ダルビッシュも19日に『ジャッジ、俺のこと知ってるんや。。』といつもの調子で日刊スポーツの記事をリツイートし、ジャッジの発言に同意を示した形です」(スポーツライター)
そのダルビッシュは、ロサンゼルス・ドジャーズ在籍時に、ワールドシリーズでアストロズに負けた当事者。第3戦と第7戦で敗戦投手となっており、サイン盗みの被害者と言える立場だ。それゆえ王座剥奪を主張するのももっともだが、MLBのマンフレッド・コミッショナーは「前例がない」として否定的な立場を示している。
オリンピックでは金メダルが剥奪された場合、銀メダル獲得者が繰り上がる仕組みが確立。2004年のアテネ五輪ではハンマー投げで優勝したハンガリー選手がドーピング検査拒否で失格となり、銀メダルだった室伏広治が金メダルに繰り上がった一件が有名だ。
一方で、チームスポーツでは王座剥奪が滅多にないのも事実。だが当のアメリカで、しかも21世紀になってから王座が剥奪された前例があるという。
「プロ並みの高い人気を誇るカレッジフットボールで、04年シーズンの全米王者を獲得したサザンカリフォルニア大学(USC)が、10年になってから全米大学体育協会(NCAA)の調査を経てタイトルを剥奪されました。その理由は、主力選手だったレジー・ブッシュがエージェント業者から不正に金銭を受領していたというもの。ブッシュ自身にペナルティが与えられたのに加え、それを黙認していたチームの責任も問われ、USCは王座剥奪のみならず翌15年シーズンの記録すべてを没収されることに。さらに10~11年はシーズン後に行われるボウルゲームという試合への出場権が没収され、10~12年にかけて合計30の奨学金枠も削られるという、甚大なペナルティを科せられたのです。名門大学のUSCが受けた処罰を鑑みれば、MLBがアストロズの王座を剥奪しないことに対して全米から大きな批判が巻き起こるのも当然でしょう」(前出・スポーツライター)
なお、NCAAでは04年シーズンの王座を空位としている。果たしてアストロズの王座が剥奪された際に、ドジャーズが繰り上げ優勝と認定されるかどうかは微妙なところのようだ。
(北野大知)