武漢チャーター便の「片道8万円」は果たして“あこぎ”なのか?

 新型肺炎により都市が丸ごと封鎖された中国・武漢市から1月29日、日本政府のチャーター便で200人あまりの日本人が帰国を果たした。政府ではさらに2便のチャーター便を手配しているが、帰国費用を利用者に負担させることが報じられると、多くの批判が巻き起こっている。

「武漢からの帰国者には8万円の運賃が請求されるそうで、各種報道では『エコノミークラスの正規運賃』と報じています。ただ東京/武漢の片道エコノミー正規料金は14万円ほどで、8万円は往復予約時の片道分に相当する金額であり、今回は特例となっています。他国でも武漢からのチャーター便で運賃を徴収するケースは珍しくありません」(トラベルライター)

 アメリカ政府では利用者に対し、運賃支払いの誓約書にサインすることを義務付け。韓国では現地報道によると30万ウォン(約2万8000円)が請求されるとのことだ。このように日本政府の措置は、一部のネット民が主張する<あこぎ>でも、<世界の常識に反する>わけでもないのだが、フランスのようにチャーター機の利用料金を無料とする国があるのもまた事実である。

「フランスは資本主義国とはいえGDPに占める政府支出が5割を超えている“大きな政府”。税金と社会保障を合算した“国民負担率”で見ると、アメリカの33%や日本の42%に対してフランスは67%にも及んでおり、これは福祉大国と言われるスウェーデンの58%すら上回ります。それゆえフランス政府には自国民の救出に政府支出を使わないという選択肢はありえないわけです」(週刊誌記者)

 なおイギリスでは具体的なチャーター便の計画が発表されておらず、英国民からの批判が高まっている。そのイギリスでは19年9月、大手旅行会社のトーマス・クックが経営破綻し、同社のツアーを利用して海外旅行している15万人もの旅行者が置き去りに。その際にイギリス政府は数百便ものチャーター便を手配し、無償で帰国させたという経緯がある。これも日本政府を批判する根拠の一つとなっているが、その批判を巡って前出のトラベルライターが指摘する。

「トーマス・クックのケースでは、帰国費用は航空旅行信託基金(ATOL)で賄われています。これは旅行商品を購入する際に支払う補償金を原資とする制度であり、一種の旅行保険と言えるもの。つまりイギリス政府が国民のために政府支出を行ったのではありません。それゆえトーマス・クックの事例を根拠に日本政府を批判するのはお門違いなのです」

 なにはともあれ、空港が閉鎖されている武漢から脱出できたことは何よりである。

(北野大知)

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