世界史の授業で習ったハンムラビ法典。紀元前のバビロニアを統治したハンムラビ王が発布した法典だが、石柱にアッカド語で刻まれたクサビ型文字を解読できるのは、特別な訓練を受けた一部の研究者のみという。これと同じことが日本の古典でも言える。昔の歴史資料に書かれた「くずし字」を読める人はやはり特別な訓練を受けた人だけだからだ。
くずし字はおよそ9世紀から明治まで用いられてきて、10億を超える歴史的文章が遺されているが、一部の専門家が「翻訳」するにはあまりに膨大過ぎていつ終わるや分からない。そこで、AIに読み取らせようという試みが現在進行中だ。
「もともとAIにくずし字を認識させる試みは行われていましたが、日本の研究機関がくずし字のデータを作成、海外のAI研究者とくずし字認識モデルの開発を行い、精度を上げてきました。ですが、歴史区分で言う近年には対応できていますが、それ以前はあまり着手されていません。また、文字を認識したはいいものの、それを現代語にするにはまた別のAIの開発が必要となるようです」(文化部記者)
歴史研究に大きく寄与して世間一般にまで恩恵がもたらされるのはまだまだ先の話かもしれないが、AI研究の進展が待たれる分野だ。
話は変わるが、11月に「AIが選ぶ本当に美味しいラーメン百名店in東京2019」というものが発表された。発表したのは東大発のベンチャー企業「TDAI Lab」。つまり、AIを活用してレビューを信頼性スコアリング化し、主観や極端な意見に偏ることのない「本当に美味しい」ラーメン店をランキングしたのだ。
AIの技術が分かりやすい実用で応用された例の1つだが、世間で言われているようにAIの技術は今後のビジネス分野で欠かせない。とろこが開発競争は、先んじるアメリカを中国が追っているのが現状だ。そこに待ったをかけようと手を上げたのがあの企業、ソフトバンクだ。
12月6日、ソフトバンクは東京大学との間でAIの研究所を設立することを発表、ソフトバンクとしては10年間で200億円を投じるとした。
「会見では孫正義会長が、東大と組むことの意義を語り、宮川潤一副社長も中国での研究の伸びを分析して、大学と企業が産学共同で取り組むことの重要性を語っていました」(経済紙記者)
と思えば、今度は4日後の12月10日にメルカリが東大の研究機関との共同研究を行うことを発表、2020年1月から24年までの5年間で10億円の研究費用を負担すると発表した。金額はソフトバンクの20分の1だが、1つの研究部門に5年間で10億円なので、ある意味こちらの方が分厚い投資とも言えなくもない。
AI脅威論も世の中にはあるが、いずれにせよ身近な活用と国際的な開発競争で時代に逆行することは不可避。こうした動きは、とりわけ新興のIT業界でさらに広がるかもしれない。
9月に放送されたNHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」では、過去の音声データからヤマハが開発を進めているAIによって現代にひばりを蘇らせて好評を博した。この時に復活させた「あれから」は「新曲」としてCDリリースされることとなった。AIがもたらす恩恵の、やはり分かりやすい実例だ。AIひばりは紅白にも出場するので、年末年始の大きな話題となるだろう。
(猫間滋)