「俺は名前だけを貸しているわけではなく、朝から晩まで厨房に入り、営業の時間外も仕込みに追われているんです。ところが、そんなことはおかまいなしにラーメン1杯だけでカウンターに居座り、ずっとプロレスの試合のことなどを話しかけてくるお客さんもいるわけですよ」
そう言って川田は苦笑する。ある時などプロレスファンが10人で訪れ、380円のデザート1つだけ注文することもあったという。
こうした理不尽な客に対し、声を荒らげることができないのが有名人のつらいところ。それでなくても、ネットの評価サイトの書き込みには常に悩まされている。
「自称グルメの人たちによる『レッテル貼り』によって『食べログ』などに勝手に投稿されることが怖い。ある時なんかサラリーマンが部下を何人か連れてきて、大きな声で『ここはすごくマズいから、お前たちにも食わせてやる』って。プロレスでもあんな汚いヤジを浴びたことはないですよ(笑)。ところが部下の人たちは『いえ、すごくおいしいですよ』って言ってくれて。そのくらい、人の味覚や思い込みはアテにならないんです」
そして川田が本書を書いた真意は、10年続けても羽が生えたように金が消えてゆく「逆説ビジネス学」の部分である。開業資金の1000万円はあっという間に消え、エアコンや券売機の購入、大型冷蔵庫のリース料、月々の電気代や駐車場代など、ラーメンの売り上げではとうてい賄いきれない経費が莫大にかかる。
「だから、脱サラしてラーメン屋なんて俺は絶対に勧めません。もし、今やるとしたら『間借りカレー』のほうがリスクは少ないと思う。お店を一時的に借りる使用料はかかるけど、カレーは極端に言えば自宅で作って持ってくることもできる。ところがラーメンはスープ用の大きな寸胴など、とてもじゃないが間借りという形では維持できません」
今も黒字にはなっていないが、それでは、なぜ川田自身は店をギブアップすることを考えないのか。
「これはもう俺の意地ですね。意地を張れば金を失うことになるけれど、それでも、毎日体を張って仕事をする場所がある。それに、自分がやりたいと思うラーメン屋を10年続けてこれたっていうのは、とても幸せなことです」
自慢のラーメンや唐揚げだけでなく、事前に予約が入れば3キロものジャンボローストポーク(このメニューのみ予約受付)も、団体客への名物料理になりつつある。また、厨房にいる時はファンとの会話は難しいが、定期的に店内でトークイベントを開催するようになった。
これだけの覚悟なくして「脱サララーメン」への転身は難しい‥‥。