昨年の米大統領選挙で巨額を投じ、トランプ氏を全面支援。その貢献から政府効率化省(DOGE)の事実上トップとして政権入りした、イーロン・マスク氏。しかし、大規模減税や歳出法案を巡りトランプ氏と激しく対立。壮絶な舌戦が続いていた。
「2人の関係に亀裂が生じたのは、トランプ氏がマスク氏の盟友、アイザックマン氏をNASA長官に指名しておきながら、突然『不適切』として上院での承認採決直前に取り消しを発表したことに端を発しています。アイザックマン氏は民間宇宙企業『スペースX』率いるマスク氏とは蜜月関係にあり、長官就任はマスク氏にとって宇宙事業拡大のためには絶対的必須事項だった。それをトランプ氏がいとも簡単に切り捨てたことで、マスク氏が完全にブチ切れ、まるで子供のような罵り知り合いに発展したというわけなんです」(国際部記者)
そんなマスク氏が7月5日(現地時間)、突如「米国民に自由を取り戻す」として新政党「American Party(アメリカ党)を結成した」と、Xで発表。波紋が広がっている。
「マスク氏は4日早朝、SNSで新党設立を支持するか、とのアンケートをポスト。その結果、『2対1で新政党を望んでいることが分かった』として新党立ち上げを宣言しています。ただ、南アフリカ生まれのマスク氏自身は大統領選出馬ができない。そのため、別の候補者を立てることになるはずですが、米国は長年にわたり二大政党制が定着してきましたからね。第三政党の躍進は相当ハードルが高いと言わざるを得ない。ただ、共和党候補の票が新党に流れれば、民主党有利な展開になる可能性もあり、ことによるとキャスチングボートを握る可能性も出てくる。マスク氏の狙いも当然そこにあるはずです」(同)
実際、現在の米国議会は上下両院ともに共和党が過半数を占めているとはいうものの、定数100の上院では共和党が53議席で民主党が47議席。定数435の下院でも、共和220、民主212と微妙な差で拮抗している。となれば、マスク新党が台風の目になる可能性も否定できないというわけだ。
「振り返れば、1992年に行われた共和党のブッシュ氏再選がかかった大統領選で、民主党が出した対抗馬がクリントン氏だった。ところが、この選挙では大富豪の実業家、ロス・ペロー氏が無所属で立候補。結果、それが保守票を分散させるという大旋風を巻き起こしたことがあった。ペロー氏は、コンピューター関連企業を起こし、一代で巨万の富を築き上げた人物で、同氏もマスク氏同様、二大政党候補に対抗する『第三の候補』として出馬したわけですが、共和党支持層に食い込み、無所属候補としては異例となる19%を得票。最終的にそれがブッシュ氏敗北の一因を作ったことは、有名な話です」(同)
マスク氏の新党立ち上げ宣言を受け、トランプ氏は6日、記者団に対し「第三政党を立ち上げるのはばかげている。われわれは共和党で大きな成功を収めている。民主党は迷走しているが、常に二大政党制で、第三政党の設立は混乱を招くだけだろう」とコメント。自身のSNSにも「イーロン・マスクがこの5週間で完全に脱線し、壊れた列車のようになるのを見るのは悲しい」と投稿。警戒感をあらわにしている。
マスク氏から自身の推進する歳出法案が批判された際、記者団から「マスク氏は追放すべき?」と問われ、「検討する必要があるかもしれない」と答えたトランプ氏。マスク新党結成で2人の因縁対決は、いよいよ次期選挙戦に持ち込まれることになりそうだ。
(灯倫太郎)