広末涼子騒動で注目された医療現場の「ペイハラ」実態

 4月7日夜、静岡県内で交通事故を起こし、その後に搬送された島田市内の病院で女性看護師の足を蹴ったり、腕を引っかいたりした傷害容疑で逮捕・送検された広末涼子。そんな彼女が処分保留で釈放されたのは、16日朝のことだった。

 実は医療現場ではその昔から、医療従事者が患者やその家族から暴言を浴びせられたり、理不尽な要求を受けるといった「ペイシェントハラスメント」(通称ペイハラ)」が日常的に行われてきた。しかし、医療従事者の多くが「日常的な出来事なので仕方がない」「仕事だから割り切っている」と、なかば諦めてきた側面もあり、さらに患者の個人情報もあって、なかなか表立って議論されることがなかった。

 ところが近年になり、理不尽なペイハラが原因で離職する医療スタッフが急増。問題をこのまま放置しておけば、医療崩壊につながるのではないかといった懸念の声も高まっていた。

 そんな中で、東京都が4月1日からカスタマーハラスメントに対応した「カスハラ防止条例」を施行。カスタマーハラスメントとは顧客が企業に対して理不尽なクレームや言動を行う、というものだが、東京都では相談窓口を設け、事実無根の要求や法的な根拠のない要求、また暴力的かつ侮辱的な要求があった場合、さらに暴行や傷害、脅迫など明らかな犯罪と判断された場合は、現行の刑法などで処罰対象としていくとしている。

 カスハラ同様、ペイハラの原因も、基本的にはストレスやイライラがたまって爆発してしまう、という根っこの部分は同じなのだが、ペイハラを行う者のなかには、飲酒や薬物を使用していたり、あるいは終末医療などで精神が不安定な状況だったり、さらには認知症の症状がみられる患者もいることから、その対応もセンシティブで相当な難しさを抱えている。

 そんなペイハラ患者の中には、突然暴れ出したり、執拗に体を触ってくるといったケースのほか、圧倒的に多いとされるのが「言葉による暴力」だという。

 例えば、「誰がこんな治療をしてほしいとは頼んだんだ、バカヤロー」「こんな手術は望んでいない!説明と違うじゃないか!元の体に戻せ!」等々クレームをつけた挙げ句、金銭補償を要求するケースもあるのだとか。さらに大量飲酒で夜間に緊急搬送されてくる患者の中には大暴れし、一晩病院のベッドでぐっすり眠った後、そのまま治療費を払わず帰ってしまうものも少なくないというから開いた口が塞がらない。ただ、深夜に大酒を飲んでいて、名前や住所を聞いても確認もできず、結果、病院側としては逃げられれば、泣き寝入りするしかないという。

 つまり、長年にわたって、病院・医療従事者の間では、この「ペイハラ」が大きな問題になっていたというわけなのである。

 そんなことから、「広末逮捕」のニュースをきっかけに、ペイハラの実態がクローズアップされたことで、医療関係者の中には「カスハラ」問題に続き、今後は「ペイハラ」問題にも光が当たり、改善するための一歩が踏み出せるのではないか、といった期待の声も上がっているという。

 病院の中には警察と連携し、定期的に「ペイハラ」問題に対する講習を開いているところもあるようだが、今後は国や自治体などが主導、業界全体で対策をとる必要があるだろうが、まさに「瓢箪から駒」。広末問題が医療界全体に大きな影響を及ぼすことになったようだ。

(健康ライター・浅野祐一)

※写真はイメージ

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