私はJALもANAも株式を少々所有している。コロナ禍の最悪期は抜け出て、両社共コロナ禍でムダを徹底的に削ったこともあって非常に筋肉質な企業になり、頼もしいかぎりだ。加えて、今は海外からのインバウンドの観光客が増えて業績も回復。株価も少し上がり、配当金も復配、増配となっている。
そして、株主にとってのお楽しみは、配当金だけでなく「株主優待」がある。航空会社の株主優待券は「国内線の航空運賃が半額になる」優待券で、株式所有数や所有期間によって配布される枚数が変わる。
急に出張が決まって航空券を予約する場合など、利用していた人も少なくないはず。中には、会社での旅費は決まっているので、金券ショップで株主優待券を買って運賃を安く上げ、出張費ではカバーできない食事代などに充てている人もいるだろう。
そう、この株主優待券は多くの人が金券ショップで現金化している。優待券は年に2回送付され、有効期限は1年くらい。もらった直後に売りに行けば、品薄なので高めに買い取ってくれることも少なくない。私も送られてきたら1週間も経たないうちに新宿や新橋に売りに行き、売ったお金で一杯やるのが楽しみだった。それが、この1年で事情が激変。買取価格が急速に下がってしまった。
以前は1枚2400円から2500円で買い取ってくれることもあったが、今では1000円から1400円。あまりにも下がってビックリしたので、店長にその理由を聞いた。すると「何しろ売れなくなったから」だという。
コロナ禍が終わり、リモートワークだった人が職場に戻ってきたものの、出張回数は依然下がったまま。わざわざ出張しなくても、各地をリモートでつないで会議をすることが技術的にも容易になったことで、企業側は費用削減として出張の回数を減らすのは当然のことだろう。
そしてもう1つの理由として、店長は「JALやANAが国内線のバーゲンを定期的に行うようになった」ことを挙げる。
コロナ禍の間に始まったネットでの国内線の激安セール。当初はどこでも7000円といった価格で販売し、回線がパンクするくらいお客が殺到した。何回アクセスしてもサイトにつながらず、買う側からするとストレスになり、諦めた人も多かったと思うが、企業側は対策をきちんと立てた。
混み合うほど殺到しても、順番待ちになるシステムにしたのだ。
つまり、すぐにサイトにはつながらないけれど「1時間後につながります」などと表示され、待ち時間はカウントダウンされる方式。あと、どのくらい待てばいいかわかるようになったことで、つながらないストレスが大幅に激減したのだ。
その名残からか、JALやANA、それ以外のLCCを含めた航空会社は、月に数日だけ、定期的に割引キャンペーンを続けるようになった。開始当初ほど安くはないし、申し込める便は数カ月先。変更取り消しのできない航空券だが、通常価格の3分の1くらいで申し込めることも少なくない。これが定番化したため、観光客だけでなく、ビジネスでも使う人が出てきたのだ。しかもJALやANA以外の格安航空会社の路線も充実して、出張でも使う人が増えた。
こうなると、株主優待券の半額割引は、それほど魅力的に思えなくなってしまい、株主優待券の買取価格が大幅に下がってしまったというわけだ。
私にとっては換金しても大したお金にならなくなり悔しいが、これだけ株主優待券が安くなっているということは、安く旅行ができるようになったとも言える。いざという時のために覚えておきたい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。