「ああ、どうしてこんなことをしてしまうのだろう」。一報を聞いて、そう思う人が多いのではないだろうか。東京都が「婚活」のマッチングアプリを開発中で、夏にもリリースするというニュースだ。
「東京都では『TOKYOふたりSTORY』というポータルサイトを立ち上げ、結婚支援サービスを行い、いわゆる街コンのイベントやウェブ相談などを行ってきました。その中で昨年12月にはマッチングシステムの試験運用も行っていましたが、これをアプリとしてリリースするというわけです」(都政担当記者)
中身は普通のマッチングアプリとほとんど変わらない。ただ対象は都内在住、在勤、在学18歳以上に限られるようだ。だが都がやることなので、登録はなかなか厳重なようだ。
手続きには独身証明で戸籍謄(抄)本などを用意しなければならず、もちろん本人確認の書類と写真も必要。また収入証明などで年収や学歴などの個人情報の入力が求められるのも、当然。さらに非開示で相手の希望条件など、より詳細な情報も入力する。これが済むとAIがマッチング先を紹介。あとは本人同士でのやり取りが始まるという。
「AIマッチング」などは、いかにも新しいモノ好きの小池百合子東京都知事らしい話だが、オワコンと化しそうな疑問が次々と沸きはしまいか。
まずは、さすがに民間の気軽な「出会い系」とは異なる厳格さ。だから安心というわけだが、逆にサイバー攻撃された場合は個人情報漏洩の危険性は高まる。かなり重要な個人情報が求められるだけに、ここでのリスクはかなり高い。
また、確かに結婚したくてもできない「未婚」は、社会的問題ではある。だから全国各地の自治体でも様々な婚活支援を行っているが、ことマッチングアプリに関しては、果たして役所がやる仕事だろうかという疑問も残る。
「未婚による少子化の問題は、ニアイコール、格差社会の問題でもあります。一番の問題は、所得が低い人が将来の不安から、結婚・子作りにビジョンを抱けないという人が多いこと。一方、出会いの場としてのマッチングアプリは民間のものも多数あり、それがために結婚相談所の倒産が相次いでいる。となれば公が参入する領域とは思えませんし、民業圧迫にもなりかねません」(同)
さらに言えば、出会い系を含めたマッチングアプリの現実としては、年齢・容姿・年収・職業の別などで、モテる人はモテるけどモテない人は徹底してモテないという実情がある。ともすれば「都のアプリでもダメだった…」と、さらなる「婚活鬱」の要因にもなりかねない。
加えて、「お役所仕事」に終わるのではないかという疑問も浮かぶ。マイナンバーカードの誤登録が相次いだり、コロナアプリの「COCOA」のサービス終了にあたっては、アプリ削除をアップデート後にしなければならないなど、行政のIT音痴ブリを嫌と言うほど目にしてきた。それだけに、役所ならではの想定で「想定外」のトラブルが起きないとも限らない。
24年度のアプリ開発を含む都の結婚支援事業には、前年度から1億円増の3億円が割かれている。もっと本来向けられるべき方向に、予算を割くべきではないか。
(猫間滋)