イスラエルがシリアの首都ダマスカス郊外を攻撃し、イラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が死亡したと、イランメディアが報じたのは12月25日のこと。
ムサビ氏は、シリアとイランとの軍事協力の調整役を担う重要人物だったこともあり、イランのライシ大統領は声明で、「イスラエルは代償を必ず払うことになる」と報復を示唆する警告を発した。
中東問題に詳しいジャーナリストが解説する。
「現在の中東情勢を語るうえで大きなポイントとなるのが、イランの立ち位置です。今、パレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義組織ハマスを全面的に支援しているのは、レバノン南部のヒズボラですが、その後ろにいるのが、シリア、そしてイスラエルと敵対するイランです。この3者がどのように同調していくかにより、今後、戦闘がどれぐらいエスカレートするのかが決まります。今回イランが報復をほのめかしたように、イランがイスラエルやアメリカに直接ではないにせよ、何らかの攻撃を仕掛けることはありうるでしょう。来年の中東情勢は今年以上に緊迫化するはずです」
2020年1月には、イラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官が、イラクのバグダッドで米軍の空爆によって殺害された。むろんイランは、報復として米軍基地へミサイル攻撃を行った。
「ソレイマニ司令官は精鋭『コッズ部隊』のトップで、イラン国内では人気も高く英雄的存在だった。同氏が米軍によるドローン空爆で命を落としたのは、レバノンもしくはシリアからバグダッドに戻った直後で、複数のミサイルが同氏の乗った車列を直撃、少なくとも5人が死亡したとみられています」
米国防総省は声明で、「大統領の指示のもと、米軍はソレイマニを殺害することで、在外アメリカ人を守るための断固たる防衛措置をとった」と発表。すると、イランは8日未明、作戦名「殉教者ソレイマニ」のもと、米軍が駐留するイラクの基地に対してミサイル攻撃を行い、イラク人に多数の負傷者を出した
つまり、今回のムサビ上級軍事顧問の殺害は、3年前の悪夢を呼び起こす、報復合戦の火種になりうるというわけである。では、イランが今後、イスラエル国内を攻撃する可能性はあるのだろうか。
「それを左右するのが先に触れたヒズボラとシリアとの同調、それいかんにかかっています。イランが直接この枠組みに加わった場合は、戦闘が中東全域に広がる可能性もある。そうなれば米軍は極めて大きな対応を強いられ、世界の政治・経済にも甚大な影響を及ぼします」(同)
中東戦争が拡大すれば当然、石油依存の大きい日本には物流などで大打撃となる。アメリカの同盟国であるため、安全保障にも大きくかかわってくる。2024年、世界に暗雲が垂れ込めている。
(灯倫太郎)